木屋 亞万

彼岸花の熱に服を焦がされ
黒と茶のまだらになった
最初は白いシャツだったのに
空は膨張し雲は引きちぎられていく

喉の奥がいがいがする
息も唾液も通らない
秘密の部屋で
黄色く発酵していく毒素

宇宙は大きくなり続けている
ということは
相対的に地球は小さくなっている
さらにちっぽけな自分とは一体

枯れた花はもう戻らないらしい
昨日食べた豚は今日はもういないらしい
前に見た花とこの花はちがう
店先には明日も豚肉が並ぶ

小さな虫のどこに命があるのか
この体の中のどこに心があるのか
ひとつずつ外して確かめたいけれど
痛そうなのでしない

アリとギリギリスは
ほんとうは蟻と蝉らしい
蝉はみんな死んだ
秋の虫は声もつめたい

赤いものが多い秋の
うつくしさのかげに
いくつもの死があって
何ひとつ戻らないけれど

あなたには
生きていてほしい
ほどよいさびしさを
かかえながら


自由詩Copyright 木屋 亞万 2022-10-08 23:22:19
notebook Home 戻る