オーバーオール
妻咲邦香

知りたがり迷宮パスタ
暴走する花を尻目に風上に向き直る
お気に入りのソファーからどれだけ離れられるかが今日の勝負
どんな画材でも描き切れなかったスマイル
君はいとも簡単に操ってみせる
誰に見せるわけでもないのに

昨日が離れていくのは寂しいけれど
新しいメニューが増えるならいいね
血のような雨で汚された、そっと隠したものを知っている
消えないよ
君の中の少年はまだ走り続けて
映画館とフルーツパーラーを通り抜け
さっきベスパにまたがった

知りたがり迷宮パスタ
成仏させられ、あとは何色にも染まる
賑わうランドリー、くるくる目が回る
覚え書きのメモで埋め尽くされた白い壁
中でも一番役に立たないのが人生

小さな庭に飛び出した
弱い鳥に食べられた
勇気だけを残像のように浮かび上がらせ
飛び出した心臓が今も脈打っている
信じられるものが幾つもないと知った時
そこに君にいて欲しいと願った

知りたがり迷宮パスタ
キリンの模様を羨んだ
二階の窓から目線がちょうど同じ高さで
今日は勝ったのに少年は遠いサバンナを見ている
ときめきの正体に気付いた時には
つなぎのポケットに穴が空いていた
そこから無数の雲が見える
星々がそれぞれのコロニーを振り返る
故郷はじきに冬支度だ

隠したものはもう見つからない
だとしたら探し始めるのは、いつもこの景色から
熱い血が降り続く君の肌の内側で



自由詩 オーバーオール Copyright 妻咲邦香 2022-09-24 23:05:13
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