タイの初日
番田 


昔僕はタイに出かけた。LCCでひとっ飛びして、夜のドンムアン空港のそばの道を歩いていた。良く、空港の周囲は治安が悪いと言われるが、たしかにコンビニの前には野良犬がたむろしていたりと不穏な雰囲気はあった。僕はフランスで少しだけ危ない目にあったことがある。その時は道をユダヤ系のように見えた女性が案内してくれていたけれど。景色の中を、無人列車が速いスピードで走っていたホーム。そんなふうにして、僕は人気のないバンコクの、日本の郊外の寂れた国道を思わせるような道を歩いていた。大きめの水たまりはあったが街灯の明かりはない。ラブホテルの看板のような看板が見える路地の角を、空港の出口付近にいたおじさんに言われたようにして曲がると、ネットで調べた時に見た、ホテルの看板を見つけた。このあたりは店は何もなく、彼に見せた地図も目印になるもののない、道ばかりが出ていた地図だった。ホテルのデザインや内装は比較的新しそうに見えた。僕は中にいた背の低い受付の男にパスポートを見せた。こぶりなバナナが無料で食べられる皿があって、食べると、美味しかった。そして冷蔵庫から取り出した水を、彼に渡された。アメリカなどでは受けられないサービスではある、でも、原価はどのくらいのものなのだろう。フランスで飲んだミネラルウォーターは、単純に美味しいとは思ったけれど、水に言うほどの違いはないのかもしれない。


リュックをベッドに置いたまま、そんなことを考えながら僕は出かけた。共同宿なので盗られる危険性はあったが腹が減っていた。高架橋の下にある現地の人が来るような屋台街で、カオマンガイを僕は食べた。それから、赤い、スイカジュースを。日本のように湿ってはいたが、暑苦しさがないのはなぜだろうと運ばれてきたそれを汗だくで飲みながら思っていた。ジュースも肉もフレッシュな味で、驚いた。スラムというわけではないけれど、あのような場所は、日本で言うところの、どのような場所なのだろう。今はもう、失われてしまった昭和のバラックの、街頭テレビの風景を思わせる大量のバイクたちのヘッドライトが、通りには川のように連なっていた。


散文(批評随筆小説等) タイの初日 Copyright 番田  2022-09-20 01:28:37
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