夜の破片
秋葉竹
あれからもう泣かないと
決めたのが冬の夜の風が強く吹く公園で
決めたのにもう一度だけ泣きそうで
君のことなんか知らないままで
生きていきたかったと云ったりして
初めての悲しみを
君に教わったり
初めての熱量で
君を欲しがったり
冬がくるまえの
緑の薫りのする温かめな声が
僕の耳の奥深くをくすぐったから
それよりも遠い希望の記憶を
忘れてしまわなければならなかったのか
僕の小さな胸の蜜の傷を
忘れてしまわなければならなかったのか
もう終わりだと知っていても
冬はいつも同じ鮮やかさで
冷たいさよならや痛い悲しみを
まるで夜の破片みたいに
キラキラとキラキラと
降りそそいでくれるから
けっきょくは一度も
君にも云わなかったけれど
ほんとうは君に出逢えて良かった
ほんとうはありがとうと云いたかった
ほんとうにありがとうと云いたかった