妻咲邦香

彼女はその猫を抱き上げた
細く鋭い雨のあがった夜
取り返しのつかない過ちと連れ立つかのように
もっとか弱い存在を呼び寄せたのかもしれない

 こんな筈ではなかったと訝しみながらも、私は眠りについてしまった
 一つ隣りの質問に誤って解答を記したらしい
 全てが一行ずれてしまった
 本来ならば全問正解
 おかげで目覚めて初めて見る世界は、思っていたものとかなり違った
 だが同じ部分も多い
 私は美しく生まれ変わる予定ではなかった

ずっと夢を見たかった
ずっと夢でいたかった
知らない誰かの知らない記憶の中で、永遠に
日を跨ぐ必要なんて無いといいと、思っていた

 私を讃え、敬うのは、不誠実な果実を抱えた者ばかり
 私はその者らの枝に捕まり、自らを閉じ込める糸を吐く

 私を
 正解から
 逃さないための
 糸

彼女はその猫を抱き上げた
痩せこけた月の消えそうな夜
猫は彼女の柔らかな腕の中で眠っている
解明などされなくともよい謎に
包まれながら


自由詩Copyright 妻咲邦香 2022-08-27 20:37:02
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