草をむしる
オイタル

墓石の彼方に
夕暮れの空が滲んで広がる
石の積まれた古びた土の
草を小さくむしりとる

焦げたような夏の匂いがする
ひときわ小さく積まれた石の
そばに軍手を置く
覚えのない旅を思い出す ふと

小石は名であるから
名とは記憶であるから
積まれた小石は記憶であるから
記憶は鼻を焦がすような匂いであるから

その小石は
誰かに呼ばれた証であるから
だから 識別のために
私は草をむしる


自由詩 草をむしる Copyright オイタル 2022-08-26 16:33:24
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