やぁ
板谷みきょう
小学校の近くの文房具屋は
駄菓子も売っていて
店番をしてるのは中風の親父で
学友たちは
「ハセのオヤンジ」と言って
片方の腕を曲げたまま手を震わせて
びっこを引いて歩き
片麻痺の真似をして
笑いあった
口をへの字にして片目を閉じ
口調まで真似て
首を傾ける位になると
みんな尊敬の眼差しで見た
同じ苗字のタッカやオンコも
ヤマロクややっちゃんも
トリもマッツも
みんな
ハセのオヤンジの真似をして
笑いあった
マッツは
名前をタエコからタカコに変えたのは
「てんかんだからだでぇ。」と
教えてくれながらボクに向かって
「イッタく~ん。」と
たえちゃんの真似までしてみせてくれた
小谷先生は
「そんな遊びは止めなさい。」と
叱ったけれども
ボクらは陰で見つからない様に続けた
沢町小学校から西中に上がり
それから
それぞれ別の高校に進み
今ではすっかりと
音信不通になってしまったけど
こないだ墓参りに
余市に行ったら小高い丘の上の
西中の校舎は移転して
別な建物になっていた
四十年以上振りに会ったオンコは
和菓子屋を継いでいたので
土産に「ウイスキー最中」を
三十個買って帰って来た
久し振りに会ったのに
ハセのオヤンジの話も
たえちゃんの話も
出来なかったのは
そんな思い出に
ボクが罪の意識を
未だに
抱いているからかも知れない