blooming underground
ホロウ・シカエルボク




蒼褪めた雪が、赤茶けた地面に降り積もる、俺は、穿たれた穴だらけの腕を肩からぶら下げて、夏のような、冬のような世界を彷徨っている、まどろみが居座った脳髄は、もう、長いこと、濁った、湖のようで…もしかしたらそこでなにかが生きているのかもしれないといった、泡が、ときおり水面で破裂する、その、細やかさの割に、音は、とても大きい、世界は、薄っぺらの紙みたいなもので、俺の存在はいつだって、確かだったことなどない―歪んで、ノイズだらけで、妙に、澄んでいる…澄み渡っている、狂気がただ狂っているだけだなんて思ってはいないだろうか?突き抜けた狂気は純粋と同じものだ、そうは思わないか、俺の魂には、いつだってデフォルトというものがなかった、ぐにゃぐにゃと、うねうねと、蛇の形をしたスライムのように、あちこちに、流れ込んだり紛れ込んだり絡まったりしては、色々なものを巻き込んで、汚れ、洗われ、変形してきた、だがしかし、そいつが求めている形なんてひとつもなかったし、俺もかなり前からそのことを知っていた…俺の真実を誰に語ることが出来る?それは俺にだって語ることが出来ないものだ、世界の中に、かすかに、かすかに、鳴り続けている、小さな、囁き声のようなノイズ、目が覚めれば覚めるほどはっきりと聞こえてくるんだ―俺のことを狂人だって言うのかい?俺は狂ってなんかないさ、俺は狂ってなんかないんだ、ただ、狂おうがどうしようが、それでいいとは思ってる、そんな気持ちが、あんたに分かるかい?…蒼褪めた雪が赤茶けた道の上に果てしなく降り積もる、それは、薬物や、ストレスや、そんなものの中で、濁っていった血液のように見えるだろう、ねえ、俺は別に、欲望を正当化したいわけじゃないし、凡庸を笑いたいわけでもない、だけど、自分がどこに立っているのか、それだけは―それだけは、探し続けなければいけないと思っている、だって、そいつは、絶対に同じ場所に立ち竦んでなどいないからだ、どこからどこまでが、確かに自分の目で見つめているものなのか考えてみたことがあるか?それは、一秒もあとにはすぐに記憶の中で印象を変えてしまう、形を変えてしまう、色を変えてしまう、そこには、俺自身の感覚が混ざり込んでしまうからだ―現象を現象のまま確実に記憶するには、正気を保ったまま狂気の中に潜り込んでいくことだ、きちがいがなければ本当は、人間は生きてなどいられない、世に溢れる芸術が、俺たちにそのことを教えてくれるだろう、なあ、俺の声はかすれているか、くぐもっていて、聞き取り辛いか、けれど俺は語ることをやめはしないだろう、それがどんな理由に寄るものなのかは、俺にも分かったためしがない、だけど、こうしてまた、俺はここに立っている、とりとめもない言葉を、てめえの内臓のように引き摺り出しては、床に並べて検分している…知ってるか、血液の色は一色ではない、歩んできた人生そのもののすべてがそこには溶け込んでいるんだ、見えるだろう、俺はひとりではない、様々な霊魂の集合体、それがこの俺の魂さ、歌えるか、語れるか、叫べるか、お前は…歪み切った、まやかしではないのか、俺はどんな理由でまだ、この人生にしがみついているのか、時々、夜中に、騒がしくて目を覚ますことがある、その音は鳴り続ける、未だ、止まったことなどない…何かが語り掛けて来る、俺を裏返すとそこにも俺の顔がある?そいつは本当か?もしかしたらまったく見たこともない誰かの顔がそこにはあるかもしれない、そして俺のことを、心底、嘲笑っているかもしれない―知ったことか…俺のことを狂人だって言うのかい?前にも言ったじゃないか、俺は、俺は自分が狂っていようが来るっていまいが、そんなことなにも気にしちゃいない、俺の欲しい真実はそんなところにはない、腕が穴だらけだろうが、脚がひん曲がっていようが、どこかに辿り着けるなら、そいつは、正解さ、これだけ喋ってもまだ足りないか…冗談だよ、本気で話してることなんかひとつもねえ、だけど―嘘ってわけじゃないんだぜ…赤茶けた道路の上で、赤茶けた道の上で、蒼褪めた雪に埋没してしまう前に、ああ、良かったと思えるような、言葉を、刻みつけたい…。



https://www.youtube.com/watch?v=aqEMej-MruU


自由詩 blooming underground Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-08-21 15:08:49
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