晩夏
逢坂 冬子
黒い鳥の群れに暴かれた骨を
驟雨に洗いながら
わたしは
晩夏の灼熱に焼け爛れた
向日葵を見上げていた
わたしは聞いていた
草いきれすら霞む腐臭のなかで
瑞々しい血肉の底、重く豊かな脈動に混じる
微かな死の囁きを
夏草の棺に横たわり
蠅の羽音に耳を澄ましながら
翠雨に煌めく森の夢を見ている
名もなき彼らの声を
忘れ咲いた太陽の花が
墓標のように聳える伽藍の園には
声なき彼らの
幽かな声が木霊している
否定も肯定もせず
ただひたすらに
生きることの苦しみと喜びを語り続ける
彼らの沈黙の声が
流転する季節のどこかで
きっとわたしたちは再び出逢う
夜を通わせた翅を広げ
静謐な九皐に綻びる白百合のもとへと
羽ばたいてゆくように
そして深い葦の褥で
秋の風がさざめく虚空に
彼らの声を遠く聞きながら
生けとし生きるすべての命の
大輪のひとひらとなる