ことばに映っているのは誰の顔か
ただのみきや

自分の焼死体を引きずって歩く
照り返しは閃く刃物
陰影は深くすべてを潜ませて
輪郭の途切れから染み出して来る
夜の水の囁きに指をあてながら

ひとつの響きが起こる前の静けさ
ひとつの響きが途切れた後の静けさ
虚空から虚空へ ただ立ち尽くす
いまそこに在ったという感覚と
どこにも無いという現実に

ひとつの舞踏
始まりがあり
終わりがある
時は胎からあふれ出す
世界が始まる前の静止から
世界が終わった後の静止へ
流れてゆく身体は記号化する
だが音楽はともにあって
自らを見えざる身体とした
やがて世界は閉じる瞼のように
暗転する
またひとつ喪失を得て

アジサイの花の上で身を躍らせる
毛むくじゃらの蜂
空の上と地上では時の流れが違っている
日時計に斬首されて
誰かの眼差しのように景色を転がった

公園の生垣から顔を出した
白いアサガオとその隠れたラセン
欲求により獲得し
在ることで与え続けた
生の始原性が風に揺れている
華奢なしたたかな装い


              《2022年7月31日》









自由詩 ことばに映っているのは誰の顔か Copyright ただのみきや 2022-07-31 11:47:48
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