おもいで
ひだかたけし
静かな鼓動の海
満ち欠けを繰り返す月影
わたしは独り泳ぐ
途方に暮れ
静謐に身を委ねながら
遥か死の彼方から降って来る霊性は
たましいを震わせ
遠いおもいでへ導く
そこには自由になろうという意志がある
そこにはあらゆる束縛からの飛躍がある
そこには遠い故郷を臨んだ感触がある
あれは暑い夏の日、
森をさ迷っていた
わたしは多彩な蝶の舞いを見た
森から湧き出てくる優美な生命たち
海は凪いでいる
わたしは独りひたすら泳ぐ
途方に暮れ
静謐に抱かれながら
黄昏が近付く
暮れゆく空に霊性が木霊し
わたしの魂は震える
死の墓標を刻んで
わたしの魂は震える
ざわめく街角に
満ち欠けを繰り返す月影が映る