BOTTLE. The bottom of the sea
ryinx


 蒼い、深い海の底でうすく揺れている
 時計の針は欠けて、仄かに照らされる
 溶け出した鉱石は、一番底の砂に攫われる

 ラベルの剥がれた歴史が
 切り刻まれた地上の光に
 攪拌された砂の一欠片に
 磔られた右の手のひらに
 無数の失意の顔がある

 かつて、草原だった所。
 記憶は濾過されたボトルで
 川の向う岸へそっと流された

 落ちてゆく夢は
 あまりにも深いその空洞に
 飲み込まれていく
 その過程の断片が

 水のなかで破れた皮膜は
 海の表皮で、夏の陽は灼熱だった
 落ちゆくボトルのラベルは剥離して
 かつて見上げた空の色をしている

 地が塩の波が千の傷を
 無限の、夢の、なか
 地上よ、時計の針よ
 せめて止まれよ、と






自由詩 BOTTLE. The bottom of the sea Copyright ryinx 2022-07-17 05:22:30
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