リグナロスとエインスベル(一)
おぼろん

石壁に横顔を当てて、エインスベルは耳をそばだてていた。
廊下の向こうから、足音が近づいてくる。
エインスベルは急いで寝所に潜り込む。
その足音、それはリグナロス・アルテのものだった。

エインスベルは、じっと動かなかった。
息をひそめる、というのとは違う。
ただ、何事もなかったように、じっとしていた。
エインスベルが収監されている牢の前で、リグナロスが立ち止まる。

「エインスベル様。起きていらっしゃいますか?」
「こんな夜更けに、誰か?」エインスベルが静かに問う。
「リグナロス・アルテでございます」その声は言った。

「看守がわたしに何の用か?」エインスベルは興味なさげに呟く。
「わたしは……あなた様を救い出してみせます。この牢獄より。
 それは必ずです。次の満月の日よりも前に……」重い声が答える。


自由詩 リグナロスとエインスベル(一) Copyright おぼろん 2022-07-11 19:35:57
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