花先が指に触れる
万願寺
花先が指に触れる
雪の際からとけていく六角みたいに
わたしの指が花の熱で
輪郭を失っては蒸気になって
この空に還る
いまここに
この場所に
花先に恣意はないのに
わたしが勝手に崩壊していく
それは夏に
涙と雨が水分としてどれだけ違うか
厳密には考えたことがないように
雨は私の体温でぬるくなり
涙は目から落ちてぬるくなり
溶け合って汚くて塩っぽい味の水になる
花先が指に触れた時
もうおしまいだと思った
わたしは暗がりの中に倒れ込んだと思いたかった
どこまでも
どこまでも
この星の大気の中に
わたしは還っていくだけで
夏の雨とともに流れる涙の温かささえあった
六角が崩れる温度
どこまでも人なのだ
わたしは体温を持つ
どこまでも逃れられない人として
ただ迎え入れられることになってしまった
この星に
生まれる前の場所に