オブジェの令嬢
あらい

寝そべれば ただ、砂の城の住人になれた
ビーチボールから空気が漏れ出すような、
答えの見えない穴の空いた口先だけが
時と場所を超え、私に還ってくる。
亡き砂の浜はわだつみに近づいていく
水際に 足を取られて、転びかける。
まなざしをみやれば、死んだ魚の眼を抱いて
転がるように波に攫われてしまった
マーメイドの亡骸みたいな海月に出会う。
掬いあげれば それは沈没船の財宝たちで
サングラスの波や海流の隙間から這って出て
「船虫ばかりね」(ちらりと見る)
――我々、漂着したものが、
美しい貝がらを背負っては、真っ直ぐに進めない
プラスチックのカラダとぎこちなく彷徨い歩いていた。
てのひらから零れた場所や時間を超え、
泪で錆びついては、姿形を変え浚われるという
骨ばった流木の腕、穢らしい眼球の煌めき
ねえ、シーグラス、太陽に殺されたあとの祀り
今更、なにになるというの〈ビーチコーミング〉
あたまがくらくらして搾んでしまった、
そのゆびさきの行方まで追いかけていたいのに


自由詩 オブジェの令嬢 Copyright あらい 2022-07-03 04:38:00
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