きみの子午線をたどる旅
ただのみきや

一房の秘密が落ちていた
甘くぬかるんだ午後の与太話の上
なんの理由も縫い付けられないまま
傷も見当たらずまだ温もりを感じさせる
カワセミの骸のように
掌でそっと包みたくなるような
それでいて人目が憚られて
黙してうつむく野の花へ
しつこく求愛する蝶のように
眼差しだけ忙しなく
ふれたり はなれたり
すると溺れていた一匹の蟻が
わたしの嫉妬をよそに縋りつき
襞の隙間を縫うように
香りの源泉を探り始めた
やがて蟻は一匹また一匹と増え
黒い文字の渦となってそれは
もう死者の頭部にしか見えなかった
かつて心臓だったものが
かたちのない性器へと変わってしまう
言葉にしないための闘争が
言葉によりただ延々と


くり返される女があった
棚に上げることのできない
明日の琥珀が目交いで剥かれていく
共時性と書かれた片方の靴が
大気の舌で形象を滲ませていた
寛大さから滴る大量の汗
荷車で運ばれて行方不明になった
記憶と青い臓器たち
壁を走る魚影を貫いたままペンは化石化する
その間もゴミ収集車が何度も
回転ドアを通り過ぎて行った
遺灰からより分けられた卵巣
卒塔婆の体温計は平熱を示す
睫毛の痙攣と寡黙な過呼吸
夏の蜂が刺す場所に迷うほど
対峙すればいつも球体


脆弱な身体と
社会性はそのままに
こころだけハリセンボン
精一杯ふくらんで
鏡の前でニッコリ笑う
そんなきみが大嫌い
ウソウソ本当は好きだから
針でつついてあげる
ほらパーンと弾けて
辺りは皆殺し
でもこころだから
こころの中だけ皆殺し


開いた本の上を
ダニが歩いていた
見開き左右
記号で出来た二次元の街を
赤い点が移動する
ペン先が禍となって
天からダニを襲う
逃げ回る
ナスカの絵のように
大きすぎる迷路に
戸惑うこともなく
難なく直進して
だがなん度目かの禍で
ダニは圧死した
微細な体液の
生と死の捺印と
わたしの愚行により
頁は汚されていた
物語とは関係のない
物語のために
数秒間それは
意味を失していた
そんな記号の羅列
二次元の廃墟を
わたしたちは駆け抜けたのだ


                 《2022年7月2日》








自由詩 きみの子午線をたどる旅 Copyright ただのみきや 2022-07-02 14:02:09
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