どどめ色の肌
soft_machine

虫たちにほしいまま襲われた肌の老面を
じっくり見るのが懐かしい
つるり、かな
さらり、だろ
ぷにぷに?
いやいや。こりこり

成人の皮膚は聞きとりにくいのだ
にこ毛がおずおず触れあって
偶然をよそおう会話をはじめるが
すぐ泣いたり喚いたりするその点
子どもらは肉の扱いにたくみ
千切ったかと思えば摘んだり咬んだり
撒きちらしたかと見るや一気に飲みくだす
からだの芯まで千変万化
乱暴で
勝ち気で
繊細でうぶ

色にする時
鉄属の赤と青でいつもの灰斑をやや青目に練り
水銀の白とローマ産を焼いた黄土を加え
ビリジャンやバーミリオンでやさしく整える
そうね、つまりどどめ色
たった四つの効果光では
無限の階調を人種なんかに引き裂けない
頭は月に負けない穴だらけ、影の音
爪は空間を固化する蝋の巣
ざんざん満ちやまない海
浮かべるんなら笹舟がいい、ヨットより
しずかに沈んでゆけるから
抵抗するのも恋なるまなざしの罪
それが逆光だとなおいい
弾ききれない
奪いきれない
ひと筋のワジをたどるシロッコ
ひと粒の氷が欲しかった

冷たかった
花みたいに
好きだった
梯子を外され
甘くなりすぎ落ちた
屋根裏で乱れた白衣につつまれ
どうしようもなく拡がっては泡だつ
在る。ってことだけがよく分る
こんなに透けてしまっても
こころで想う故よりふるく
いつの日か分裂もおわる
それでもわたしの記憶のはじまりは
きっと今でもことばより早い



自由詩 どどめ色の肌 Copyright soft_machine 2022-06-05 22:42:40
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