千年樹 【即ゴル不参加作品】
壮佑
樹木には牙がある それは樹木に夜が言い寄ってくるからだ 夜の言葉は樹木に浸透し それゆえ樹木は夜に牙を立てる それは樹木が樹木自身に牙を立てることだ 夜は樹木に応えて 血の言葉を吐いて言い寄り続ける 樹木は夜の血の言葉で充たされ 夜の血の言葉は樹木の中で樹液となって 緑色に発狂する
樹木と思考は共生している 樹木が枯れる時 我々は思考を消失させる この時 樹木は落葉の影から思考に向かって鳥を放つ 鳥は消えてゆく思考を惜しんで囀り 思考は消失しながら鳥の囀りを祝福し返す 祝福された鳥の囀りは大地に染み込み 地中は鳥の囀りに満たされて 新たな思考の苗木を育むのだ
樹木は今日も母音を避けている 樹木は母音に負債を感じている 本当に負債があるわけではない 感じているだけだ それは樹木の生き甲斐となっている 母音にイメージを負債すること それが樹木の転倒したセクシャリティなのだ だから母音は自分を避ける樹木へ子音を射精する それゆえ樹木は星を受胎する
樹木の人がいる 彼は自分が人でもなく樹木でもないと思っている 彼は自分が雷魚だと思っている だが実は彼は樹木の人なのだ 彼はただの樹木ではない なぜなら肋骨から海鳴りが聴こえるから ただの人でもない なぜなら街で獣が吠えているから 彼は舌が青変するから雷魚でもない 彼は樹木の人なのだ
樹木の人は星の狩人だ。樹木の人が蠍座のアンタレスを葉叢の中に囲い込んで捕食する時 実は樹木の人は図書館で海の百科全書の第81巻を読んでいるのだ 結局 アンタレスは百科全書に記述されている海に墜ちる すると海は砂漠に変わり 海の百科全書だった本は 惑星地質学原論に変わってしまうのだ
樹木の真の形には五種類ある それは古代ギリシャ時代からプラトン立体として知られている 欅は正四面体 楠は正六面体 山桃の木は正八面体 もちの木は正十二面体 そして楓の木は正二十面体という具合だ 地球にはこの五つの樹木しかない それらプラトン立体の相互貫入のバリエーションが 一見多彩な植生を作る
プラトン立体が縦に積み重なると 樹木は千年樹になる プラトン立体を積んでいく順番は歴史を通して秘密になっていたが 実はどう積み重ねても千年樹になるのだ 五つのプラトン立体の順列組み合わせの数だけ千年樹には種類がある
*即興ゴルコンダ(不参加作品)出題:星子アヤノさん(2015/01/22)
この文書は以下の文書グループに登録されています。
即ゴル参加不参加作品