やちまたの記
おろはげめがね

小粒な貝殻が天使の爪となり
冷たい海水でその羽を洗うような朝
紺碧の海に笑う神々の声みたいな
波の音が轟きその間に間に凪いだ水面
今生で忘れかけていたことを喚び起こす
その潮の干満に合わせて満ちる香り
藍色から茜色に染まって行く空に
点々と漂うように飛んでいる鳥たちは
その白さ故の純潔じみた鮮やかな姿を
自らは殊更に認めることもないのだろう
僕はそんな光景に倦み疲れてしまった
今日は美しい感情を抱けないようだ
それでも眼前の晴れ渡る広い空に
頑是ない子供の頃の無垢な夢を見る
もう忘れたいのだろう黄金色の夕焼け
盲目の恋に身を焦がしたあの日々の事
忘却に身を委ねまた茫洋と海を眺める
天国に旅立ったあの人たちの歌の事
心の奥思い出すたびに落ちる青い涙
黄泉の国にお見送りするのは今はまだ
この世とあの世の狭間にある白い浜辺
来ぬ人を待つ事に費やした青春
あの子がひとりで遊んでいたのはなぜ
しばしの別れを惜しむ寂寥の潮風
刻々と病んでいく黄ばんだ太陽
切り取られ落ちていく絵画の様な感情
叶うはずもなかったかつての淡い願い
請い願い後生大事にまた冥土の土産
爽やかな雨だれや陽だまりがこのあばやらに
降り注ぎ日の光すきとおり満面の笑み
メリーゴーラウンドのように季節は巡って
雨あられ春嵐のあとどうぞまたご覧あれ
五月の末に芽吹き咲いたまばゆい生命の色
ぬばたまに輝く漆黒の夜の夏空
十六夜が誘う少し欠けた秋の月
固く閉ざされた冬のくろがねの様な悲しみ
春また来てやちまたで待つ懐かしいあの人に
また会えて嬉しいよ再会の喜び


自由詩 やちまたの記 Copyright おろはげめがね 2022-06-01 21:41:38
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