昔日の面影
おろはげめがね
前略 生きてるかい
そんな綺麗な便箋の文字が
心の琴線に触れて
栓をしたはずの思いが
全然忘れられて無かったって事に気づいたよ
公園の陽だまりで日向ぼっこした様な日々
胸に響くひなげしの花言葉みたいな
恋の予感を感じていた何も知らないぼくらに
きらきらと降り注ぐ陽は煌めいていたね
その時にだって君にも後悔の一つくらいある事を知っていた
だけど今回だけの関係で終わらせたくはなかった
なあ、人は苦しみを持たないと美しくなれないなんて事はもうないだろう
生まれてこのかた君は美しかったし
生まれてくる子供たちはみんな美しいんだ
もう、嘆くような事はないんだよ
ひとひらの淡い想いにだってあるんだ
その一つの言葉にも思いやりがあって
浅い川べりのせせらぎのように優しい
お気に入りの詩集や
音楽に向き合うように
いつか大切な誰かと
いつまでもおしゃべりをしたいよね
さあ、これからどうしよう
たしかあの時も季節は秋で
そんな紅葉の頃に茫洋とした気分で
紅潮した頬みたいな色の落陽の様な
人生の黄昏を眺めていた
ひっそりと鄙びている寒い港でのこと
火のような静寂がぼくたちを包んだね
街灯はぼんやりと寂寞たる影を落として
かつて賑わったであろう街角を
照らしていたよね
そう、もう大丈夫なんだよ
何も心配する事はないんだよ
かつての嵐の様な苦難は去り
光の差す晴れ間を得たのだから
何一つ得られずに生きてきた人生だけど
かけがえのない思い出が掌には残った
沈まない夕日だけが
じっと待っている丘で
泣けるくらいにこの世界は
どうしようもなく綺麗で
生まれてきた事や
挫折や
喜びや
君とのこと
人生の全てを
愛したいと思えた
もう、泣かなくていいんだよ
君のために編んだ歌や
うたかたの花束や
彩りを添えてくれた
色んな景色たちにも
忘れる事はなく
ありがとうと言いたい
ありがとうと言いたい
ありがとうと言いたい
これからは悲しみや傷も蒼く癒えて行き
太陽はまた昇り前を向いて生きていく