町の噂
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一瞬で転送される立体はまだよい
心は刷るほど偽りの貌を現す

薄板の下におおきな口がひらき
落ちてくる者を待ち受けるらしいと疑う
本当に扉の向こうではいつも真空が拡がり
きみが出入りするたび起動する者がいるのだ

理由が不明のなみだに
求められるまま説明し
海にまき散らした疑いが
かなしい叫びで
こんな送り方も
おかしいものねと
腕をからめられ
ぼくも岩場に沈むひとりでに
回転する網と
鉄砂とひかりは
仕方によっては罠になる
ひかがみの白い輝きも

花が好きで花屋になれたから
人が好きで人屋にもなれたのか
薪雑把にこしらえ
動く手脚をきつくいましめ
向かってくる木馬を一頭づつ打ち砕こうか
いつからかぼくの中で泳ぎ回るちいさな鯨が
ささくように
硫黄色の潮をふき上げ

わずか十四平方粁しかないこの町で
知らない名前とすれ違う難しさに較べれば
生地の内側から塞ぐ個人的な
ひっそり旅する惑星は
淡紅の長尾をひろげ
青白くふくらむ面差しを迎える
次の角でひょっこり現れる
人形の輪郭を指でなぞる
ここで未来が影を宿した記念館なんだって

大抵の暴言は聖句の粗悪な複製
だなんて言ったらきみは泣くだろう
きみの経験に真実の暴威が無いから
無邪気に悪意そのものの美を称えられる
だなんて言ったらきみはナイフを抜くだろう
悪と正義が混淆されると破壊をまねくし
悪の対義語は愛でないと釣合わないぜ
これでようやく笑ってくれる
純粋な殺意は消せるものではないって
きみが気づくその日までに
ぼくは次の言い訳を考える

二日ばかり町の噂に耳を傾けてみたが
こんな調子ではそろそろお仕舞いでよいな
それともその機をとうに逸しているのか
信念を怠けたことばで
きみを退屈に弄び
燃える枯草に引き寄せられた
煙にまかれ墜落しそうな虫たちを
そっと芝生に横たえ
空は虹をしたたらせ
傾く電信柱のてっぺんで
烏が卵をあたためている
そろそろ、お家に帰ろうね
じゃあ、お腹空いたかな
なに食べたい?
わらび餅
きき憶えする声の方を見たが
逆光もやはり誰も知らない貌



自由詩 町の噂 Copyright soft_machine 2022-05-21 20:11:58
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