〈根源悪〉の原体験/異邦の恐怖(改訂8)
ひだかたけし
薄暗い
漠然と広がった
空間のなか
台形の
ノッペリとした
大人の背丈半分程の
鉛色の工作機械が
等間隔で何台も
一列に並べられている
大きな金属音があちこちから
互いに呼応するよう
規則的に響き渡る
人影は全く見当たらない
三歳の私は
並んだ工作機械の一番奥隅で
両耳を手の平で強く塞ぎ
背をできる限り丸め
うずくまっている
私は
自分の存在が
ナニカに気付かれてしまうこと
そのことにただひたすら怯えている
と
いつのまにか工員が一人
機械工場の入口に立っている
工員は
灰色の作業服姿に
つばの付いた
灰色の四角い作業帽を被り
背が高くマッチ棒のように痩身だ
私はうずくまり目をきつく瞑っているのに
彼の姿やその思念がつぶさに分かってしまう
彼の注意は
最初からジブンに向けられている
彼は私の存在に気付かないふりをして
刻一刻と私に向かって近付いて来る
逃げなければ逃げなければ!
私は恐怖に大声をあげそうになるのを必死に堪えながら
立ち上がろうとする
が
そこから動くことは決してできない
ふと一斉に
響き渡っていた金属音が止む
私は思わず顔を上げる
〈彼〉が工作機械の上から私を見下ろしている
〈彼〉のつばの付いた灰色の工員帽が見える
ガ
工員帽の影になった 〈彼〉の顔ハ
夜の砂漠のように茫漠たる闇で
その奥からギチギチギチギチと
執拗に歯軋りを繰り返すような
異様な擦過音が響き続ける
*
「わっ!」と叫び私は目覚め
ベッドから上半身を起こし
荒い呼吸を繰り返しながら
思わず後ろ手を付く
ト
眼前の
灰色の漆喰壁
襖張りの白い引き戸
ガ
豆電球の仄か黄色い明るみの中
浮き上がるようにして 在る
日常当たり前にあったものが
今や剥き出し露骨な匿名性として
冷たい無機質な虚無の塊として
そこに在る
私が呆然として
その光景を
凝視していると
次第に
ソレラガ ウゴメキハジメル
)辺りにいつのまにか響いている
)ヴゥーという低いモーター音と共に
ト唐突
ソレラが
無数のザワメキとナッテ
一斉に立ち上がり
一気に私の中に
雪崩を打って
侵入して来る
このままではじぶんがじぶんでなくなってしまう
じぶんガかれらニ奪ワレテシマウ!
私はもはや夢も現実も錯綜した混沌のなか
じぶんの名前をひたすら反芻しながら
半狂乱にナッテ脱出口を探す
逃げなければ
かれらカラ逃ゲナケレバ!
*
気付くと私は、廊下にうっ伏している
両手を合わせ握り締め荒い息を吐きながら
)どうしたの、たけし?
急に頭上から声がする
母親のいつもの落ち着いた声
途端、私は理解してしまう
)この人にはボクの恐怖は絶対分かってもらえない
同時に、
救いようのない絶望感が私を貫く
肉を魂を貫く絶望が