放擲されたこの夜に
ひだかたけし

一雨毎に深まりゆく
この春日に佇んで
私は浅く息を継ぐ
虚脱の朝に不安な昼に
剥ぎ取られてしまった色を探し

  *

記憶の奥の入学式
通り過ぎてく畑の野草
お母様と手を繋ぎ
降っていた、降っていた
明るく柔らかな陽射し
降っていた!
色褪せはしない遠い日々
世界に居着き憩っていた
ときめきながら憩っていた
じぶんがここにいると
ときめきながら識っていた

  *

一雨毎に深まりゆく
この春日に佇んで
私は深く息をつく
憂鬱な夕に恐怖の夜に
剥ぎ取られてしまった毛布を探し

(放擲されたこの夜に
俺は巨大な毒蜘蛛を観る)













自由詩 放擲されたこの夜に Copyright ひだかたけし 2022-05-13 19:41:55
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