リスキーな夜の話
ホロウ・シカエルボク
闇、散り散りになって
ちっぽけな逡巡を嘲笑い
睡魔に弛んだ
色褪せた脳髄の
目を瞑るに任せる
アウトサイド、口内の苦い
苦い苦い傷を噛んで
喉笛に忍び込む
血液を記録した
午前一時、始まりに終わる
騙し討ちは
固く小さな虫のように
枕元に転がって
思わずの短い声が漏れるが
それには何の意味もなかった
朝になるまでにもっと
もっと明確な血が吹くだろと
差出人の不明な
簡潔な手紙
爪をギザギザに噛んで
返事の代わりにした
明け方には呻き声になりたい
生きてると知らせられるから
そして、あぁ、そうなのだと
気づいて起きることが出来るから
春の日の乾涸びた蝉の死骸
あれを目にしたのは
何日まえのことだったろう
吹かした嘘みたいな
覚え書きばかりが場所を取る
よう、少し脇へどきなよと
似たもの同士で戦争が始まる
バラエティ・ショー
解説の要らないものが一番楽しい
ゲタゲタ笑う分には
やりそびれたことはないかい
仰向けになって天井を眺めると
裁判のような自問自答が始まる
模範解答は持ち合わせがありません
被告は弁護の機会を放棄致します
ばたん、ばたんと
本棚の文庫が二冊倒れる
ブックカバーを無くしちまって
別に片付けた分の二冊
あぁ、何かしら被告に近しい
傍聴席の誰かの役回りなのだと
気づいた瞬間は礼を言うには遅過ぎた
だから深呼吸をして
ぼんやりとしたやつらを追い出した
まともに眠る時がやって来たのだと
何度自分をペテンに掛けようとしただろう
ムカデのように天井の隅にぶら下がった
記憶の中で浮遊霊と化した俺が
涎を垂らしながらこちらを見つめている
依代、身代わり、ヒトガタみたいな…
そんなていのいい何かを求めて今夜も遊んでいるのかもな
意識のひび割れにパテを塗り込んで
カルテやレントゲンの代わりに壁に貼り付けておこう
欠伸をすると
軽度の認知を抱えた
母親の気持ちがわかる気がした
サンデイ・モーニング、日曜日だから
神に弄ばれる俺たちは公園で遊ぶのさ
砂場に
とても他人には言えないような
出来事を埋めながらね
隣のクラスに居たあの子
年端も行かないうちに白血病で死んじまったっけ
みんな泣いてたけど
あいつが可哀想なのかどうか
俺にはあまり理解出来なかった
良く晴れた朝だったし
気持ちのいい風が吹いていたから
ね、真実なんて
一言じゃ片付かないものだぜ
楽をしようなんて考えたらおしまいさ
だから
夜はいつだって散らかってばかりいる
ああほら、最初に話した言葉は
ベッドの下に転がっていってしまった
拾い上げたらきっと意味が違ってしまうだろう
短い口笛を吹いた
それは天井裏のネズミをちょっと苛立たせた
こめかみを掻いて、身体の力を抜いた
あれこれと戯れるには
多分もう少し遅かったのさ