春、出会い
坂本瞳子
春だというのに雪が降る
それはあの年もそうだった
杏子はミニスカートが似合わなかった
三編みも似合わなかった
セーラー服なんて好きじゃなかった
それでも制服を来ないという選択肢は
彼女自身にも周囲の誰にもなかった
雪のおかげでコートを着られた
長靴を履くことも許された
マフラーをほっかむりにして
顔を見られないようにした
それでも寒さで頬が赤らんだ
かじかむ手を小振りにしながら
誰にも見られたくないから小走りした
雪で滑ることのないように細心の注意を払って
それでもやっぱり転びそうになった
校門のところで後ろから
両方の肘をがっちりと支えてくれた
楠木先生は男の人の匂いがした
お父さんのとは違う
ケンちゃんはそんな匂いなんてしない
先生の背景には雪ではなく桜が舞っていた
それが出会いだった