鞦韆
秋葉竹
彼女のことは雪が降る夜に知った
罪を飲みこんだ白い獣の子が
すがるみたいな小さな鳴き声で鳴き
だれも好きになれない自分のことを
お手上げだから、と、足下の
黒い砂あたりを蹴り上げていた
こんやはひさしぶりに雪だねと
積もらないだろうけどねと
声を掛けて
そのあたまを撫でてみたかったが
それをするときっと
キッ!とこちらを睨めあげ
二度とこちらをかまってくれなくなりそうで
『わたしの罪は肺が汚れた彼女を泣かせること』
『同じ息を吸う夜に彼女の肺を凍りつかせたこと』
こんどまた会えるかな、と、尋ねたのは彼女の方
ただ握り締めた絶望の短刀をこちらへ向けて
そのあとはずっとうつむいてだまっていた
鞦韆を軽く漕いでいるので
ギィコ、ギィコ、と、夜の公園に泣き声みたいな
すすり泣きが聴こえたのか
はっきりと
忘れてはいけないことがある
さきに汚れているのはこちらの方
彼女のことは雪が降る夜に知ったこと