欲望
atsuchan69

 ボクのおもちゃ箱には、各国の偉い将軍や独裁者へ直通でつながるスマホがしまってある。彼らの軍隊はボクのオモチャで、戦車やミサイルも国籍はどうであれ、ぜんぶボクの物だ。
 イ・ピョンイルによって「欲望」と名付けられたミサイルは、去年のクリスマスに父に買ってもらった。
 早く使わないと、今年のクリスマスに新しいやつを買ってもらえない。ただこれを使うと大勢の人が死ぬ。地球が壊れるほどではないが、生き残ったボクたちも地下施設で数年は暮らす羽目になる。それでも戦争は売春や麻薬取引よりもずっと楽しくて、街を壊せば壊すほどボクの父が所有する会社が儲かる仕組みになっていた。
 チンピラ連中は売春や麻薬で稼ぐが、父のような良い人は災害や戦争で荒稼ぎをする。ずっと昔から、良い人は教会へ寄付をし、貧しい人にはパンを配り、裏では奴隷貿易をし、麻薬の利権を政治家や軍人たちにも与え、ギャングの親分を庇い、地球上の至るところで紛争を作り出し、争いあうどちらにも平等に武器を売って医者と教会、棺桶屋を喜ばせてきた。
 「だがしかし、人が多ければ多いほど乳母車から棺桶まで売れて儲かるにしても、この星を守るには少しばかり人間がふえすぎた」
 と、父が言った。
 「じゃあ、べつの星に要らない人間を移せば良いのでは?」
 ボクがそう言うと、
 「それには莫大な費用と時間がかかるし、ほとんど利益を得られない」
 そう言って、父は眉を下げた。
 「でも父さん、アフリカや、砂漠を緑にする技術を日本という国が持っているらしいけど」
 「ああ、海水の淡水化技術なら知っている。でもそんなことをさせてしまえば、父さんたちのビジネスは上手くゆかなくなる。この地球はね、貧富の差によってバランスが保たれているんだ。貧しい人たちは【ゾンビ】なんだよ。おまえや母さんが安全に暮らすためには武器が必要だし、その威力をゾンビたちに教えてやらないと奴らは腹を空かせているからね、いつでもすぐに襲ってくる」
 「戦争があるのはそのためなんだね」
 「その通りだ」
 「じゃあ父さん、ボクがゾンビ同士を戦わせてもいい?」
 「ああ。でもどうやってするつもりかね」
 「まえの戦争のときと同じだよ。父さんのやり方をボクはちゃんと学んでいるんだ」
 「だとしたら、出来るかぎり大がかりにやりなさい」
 「うん、【欲望】も使ってもいい?」
 「いいとも。すでに豪華客船並みの地下施設を世界中あちこちに用意してある」
 「じゃあ父さん、メチャクチャに壊した後、この地球はどうなるの?」
 「大丈夫。ゾンビたちは死んでも死なないから。きっとまたすぐに増えはじめる‥‥」



自由詩 欲望 Copyright atsuchan69 2022-04-28 12:38:25
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