透ける月光
秋葉竹
夜に、心が、透けた。
僕らはいつだって泳ぐ魚のように、
自由に青い空間を跳ね回るんだって、
べつに日々の暮らしを守るなかで、
そんな風でいることがあたりまえだと思っていたよ。
ふたりなら、
どこでだって、
電車待つ構内でだって、
信号待ちの交差点でだって、
お気に入りのショップの中でだって、
僕のベッドの上でだって、
君のベッドの上でだって、
バシャバシャ、バシャバシャ、
抜き手きってカッコよく
泳いでいられるって、
信じていたよ、いつまでも、そうだって。
今、なぜか、僕は孤りで溺れている。
まるで君の心を食べてしまったみたい、
楽しくって、嬉しくって、
なのに、
震え戦き、寂しい孤独に襲われる。
君の瞳からこぼれる真っ赤な血を
拭っても、拭っても、
今は僕の
目の前には暗闇しかなく、
君の笑顔は二度と戻らないんだと、
知る。
やり直しもきかず、
再生もできず、もはや、
壊れてしまったガラクタAIの笑顔みたい。
指を伸ばして
届く距離でも
触れられない
きみの身体には、
むろん心にも。
あの、愛おしくてキスした
月光に照らされる
濡れたまつ毛さえ
みせないために、
僕を大きな目で、
無表情に、
みつめているのか。
夜に、僕の心が、透けた。
想い出を守れずに、死んだ。