五線譜の糸
由木名緒美
不器量な手だから
なぞれない象徴があった
見届けられない背中だから
言葉に出来ない痣があった
哀しみは木偶人形の口笛
哀しくて哀しくて歌が漏れる
そうやって辿り着いた音階は
成層圏での呼吸の仕方を教えてくれた
どれみ み みれど
音じゃないと測れない温もりがある
あなたという五線譜に縛られて
身体中の細胞が熱い血潮で満たされて
私は私を脱ぎ捨てて
あなたの横にくずおれる
後頭部に首を振れば
甘い三日月の夜だった
果てなく龍が渦巻くような群青の雲に覆われた
この星の円心に抱かれたい
人間の命をすべて灯すかのように
揺れる蝋燭を携えて
燃え尽きる頃
私は始めて地球に抱かれる
砂粒の一つになり砕いて巻いて最果てへ
その煙る虹が光となる頃
ようやく人間として生まれよう