這 いずる

お待ちのお客様は一人ずつ
降車していった
忘れ物を置いていった
あると知りながら
要らなかったから

裁かれるのを待つ座席で
お登りになっていく次次の人が
わたくしの袖をひらりとかすめ
怒りの目を向ける
足の血管はかたまりの石になり
目を見開いて風の色を見て
無理と無知を知る

失い物を探している手と手と手の
這いずりを避け
未踏の雪山をして
未踏はないと知り
登山だけ残る

避けてひっそりと暮らすことを望み
望まれない手のまま
何も起こさないことを望まれて
石を積んで暮らすのだろう


自由詩Copyright 這 いずる 2022-04-05 18:28:04
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