すべてが所詮は呪縛という名の遊戯であるのなら
ホロウ・シカエルボク
夕食のときに誤って
傷つけた口の中が傷む
悪態が脳裏で曲芸飛行を繰り広げる夜
ラタンの椅子の上で一対の飛蝗が
遺伝子を残そうと試みている
呪縛から解き放たれた
そんなものになりたかった
生命の呪縛、種族の呪縛
宿命の呪縛、自己認識の呪縛
そんなものに抗いながら並べ立てる言葉のすべてが
また、呪縛であることに気付きもせずに
苛立ち紛れにフォークの先端で
口腔内の傷口をわざと刺した
喉を満たす血の味
わけもなく思い出すイギーポップ
地底に隠れたナマズが
命を振り切れるまであたりを揺らし続けるような
欲望とフラストレーション
存在であることを笑う瞬間こそが
もっとも自由なのかもしれない
俺自身が飲み込んだ
俺の血はどこへ行く
俺自身の遺伝子を持って
再び体内へ取り込まれる
それは上書きだろうか、それとも更新だろうか?
実際、呪縛のない存在というのは最早
生きる意味の無い無頭症のようなものに過ぎない
血の味はハイ・カット・サウンドの如く
そのすべてを俺に語り尽くす
喉の奥で
言葉を
自分を守るために使い始めたら終わりだ
存在を落ち着かせるために
ていのいい落としどころを作り始めたりしたら
己を切り刻んで
一番深いところにある
奇形めいた欠片を取り出す
それを拾って差し出さなければ
ただ流し続けろ
ただ流し続けろ
欲望は水と同じだ
放っておけば流れていくべき方向を見つけるものだ
もしもどこにも流れて行かず
その場で澱んでいくだけなら
その持主がもうどこにも行けなくなったということさ
時々
自分が揺れているみたいに感じるのは
その欲望が
出口を求めて暴れているからだ
欲望の自家中毒
存在の疾患
揺らぎの中で垣間見る
ポップ・アートみたいな幻の数々
現実である必要など無いし
幻である必要も無い
どちらかに決める必要も無ければ
そのどちらでも無い何かである必要も無い
それはただひたすらに
在るものと無いものの狭間で
現在地点を知るためだけの
闘いであるべきだ
時間は変化していく
思考も
それと同じ流れを持つべきなのに
時計の針が一周するのと同じ
生活が無数に存在する
時間と時刻は同じではない
便宜的に刻まれたものを
信じ過ぎるとリングの外にはもう出られない
鏡像は先に語り掛ける
失ったものと手中におさめたもの
そいつを全部ここに示せるかい
お前がお前であるための何かを
闘いを続ける理由を
小さな集まりを拒む理由を
進化を求め
停滞に唾を吐く理由を
どれだけの言葉を並べてみても
これだというものは見つからなかった
鏡像はにやりと笑い
それでいいんだよと穏やかな声で言った
十代を説き伏せるみたいなやり方はよせと言ったら
お前の中にはまだ思春期ってやつが生きているだろう、と
静かにゆっくりそう言って勝手に背中を向けた
俺は瞬きをして鏡に手のひらをつけたが
すでに虚ろな目の俺が同じように手のひらをつけているだけだった
語られる時、語られるべき時というものが
様々な瞬間に点在する
古いレースゲームの
味気ないフラッグみたいにさ
その時、どんな声が聞こえたか
その時、なにを口にしたのか
人間は我知らずその先を求める
まさに呪縛さ
与り知らぬところでそいつは息をし続けているんだ
詩情の濁流に飲まれ
腕を伸ばし続けてきた俺は
果たして俺自身だろうか?
あるいはそんな
どこかで口にした、耳にしたものに
憑依された傀儡ではないだろうか?
俺は時々自分の身体を痛めつける
そこに確かに血肉があることを知ろうとしているみたいに
俺たちみんな幽霊さ
それを怖がる連中が
誰かの作った列にならんで胸を撫で下ろしている
子供の頃から
そんな列に並ぼうなんてこれっぽっちも思わなかった
幼いころから胸の内側で
激しく騒いでいる怪物の声を聞いていたからさ
そいつは俺を決して満足させてはくれない
だから疑うことなく
そいつの声と共に俺も声を張り上げる
それが心なら
それが熱なら
それが
まだ知らぬ俺自身の真意なら
語らなければ嘘だ
叫ばなければすべては嘘になるんだ
飲み飽きた血を吐き出して
最初の一言を探し続けている
それは
生まれることも無ければ
きっと死ぬこともないだろう
生温い風の中
俺は目を閉じる
雑多な喧騒に混じって
ほら
また
語るべき時はやって来るだろう