女の寝顔
花形新次

真夜中の2時過ぎに
リヴィングで物音がするのに
気付いた
隣の女は小さな寝息を立てて
起きる気配はない
俺は女を起こさぬように
静かにベッド脇のデスクから
コルトを取り出すと
リヴィングに通じるドアを開けた
リヴィングのテーブルで
一人の大柄な男が
イスに座ってピザを食べていた
「こんな時間に何をしている!」
俺が問い質すと男は
「んなあー」と奇声を発して
別のドアに向かって走り出した
テーブルには男の残したピザの残骸が散らばっていた
それを片付け終わると
俺は男が逃げ込んだ部屋をノックして
中に入った
男は既にベッドに潜り込んでいた
「ジミー、腹が減ったなら
そういえばいい
黙って冷蔵庫を漁るのは止めるんだ」
男は「ヤメルンダ、ヤメルンダ」と
おうむ返しに言った
俺は布団の上から男の頭を撫でると
「おやすみ」と言って
自分の寝床に戻った

昨日の夜はフライドチキンだった
夜が明けたら女に言わなければならない
このままだとあいつは40まで生きられない

しかし、そんなとき
女は決まってこう言い返す
「あんたと一緒だから大丈夫よ」

いつかコルトが火を吹くのは
こいつの眉間に向かってだ

女の忌々しい寝顔を見ながら
俺はコルトを元の場所に戻した


自由詩 女の寝顔 Copyright 花形新次 2022-03-06 21:19:19
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