二十二歳に書いた歌詞
板谷みきょう

『風人に捧ぐ』
ふと口ずさむ歌に思い出した君は遠い過去
口癖のように語った夢は歳に不似合い笑いの的
耳をふさいで眼をつぶり がむしゃらに生きて
そして

学生時代の幼馴染と語る思い出はいつも君
とうの昔に途絶えた命に触れることなく夜を明かす
声を嗄らして酒を飲みやるせなさに胸詰まり
そして

最後まで捨てない希望と裏腹に進む病
治らず仕舞いで終わることすら胸にしまって笑いの的
運動音痴の青びょうたん何も知らずに馬鹿にして
そして

希望と夢を語ったように力付けてくれる
悪口言って馬鹿にして仲間外れにした僕を
つらくて苦しく泣きたい時に
あの日の君が今も
いまも

*★*――――*★*

『さすらい人』
忘れかけた思い出だけを
抱きしめて君は出ていく
ほのかな想いを抱く女も知らず

憧れだけを頼りに
ベルの音が響くホームで
見送る人の影も無いまま
一人列車に飛び乗ったのは
朝もや立つ夏のこと

僅かばかりの
未練を残し
君は何を考えたのか

振り返り断ち切れ夢のため
帰れぬ今は旅立ちの朝

希望に満ちた憧れの街
過ごすうちに君は気付いた
見渡す限りにビルの立ち並ぶ
他人だらけの街だったのを

車が通ると揺れる部屋で
バイトに疲れた体を横たえ
夢も色あせ
ギター爪弾き歌う
優しかった故郷を

当てもないまま街をさまよい
君は誰に愛されたのか

出かけよう
かつて見た夢を探しに
捨てれぬ今は流離の朝

*★*――――*★*

『雪風に埋もれて』
あの頃の僕ときたら
明日しか見る事が出来ずにいたけど
君はそれを拒みはしなかった 
そして
解り合えぬまま
手探りで心確かめあって
二人の暮らし夢見ていた 
幾つかの夜を過ごし

あの頃の君ときたら
今日さえ信じる事が出来ずにいたけど
僕はちっとも気付かなかった 
そして
遠く離れて
君の心変わりに気づいても
それでも約束信じていた 
幾つかの夜を過ごし

何もかも消え去って
たった一つ捧げ唄残っていたけど
偽りのない心と言葉が 

僕のなかで
君と共に少しづつ
懐かしい思い出に変わる 
幾つもの夜を過ごし

僕の求めに 酔心地で君 
初めて肌を許した
寒さが身に染む こんな夜 
独り
こたつで気にかける

今でもどこかで
君は
熱い熱い スキムミルク
ふうふういって
飲んでいるのかな

*★*――――*★*

『母さんはね』
「死んだ方がましだ。」と
貴方は 母さんの事も考えてくれず
部屋に閉じこもってしまった

貴方の好きな 全員集合が始まったのに
貴方が部屋から出て来なかったのを
母さんはね てっきり貴方は いつもの様に
ふくれたまんま 寝てしまったんだと
思っていたのよ 幼い貴方がまさか

机の上に開かれたノートには
鉛筆で父さんの事についても書いてあった
いつも
楽しくプロレスごっこをしていたのに
貴方は「約束を守ってくれない。」なんて
母さんはね てっきり貴方は ちゃんと 父さんが
忙しいのを 解ってくれてると
思っていたのよ 幼い貴方がまさか

貴方が一番大好きで いつも読んでと
せがんで持って来た『にんじん』という本
「可哀想だね。」と貴方は言って
「うちは、父さんも母さんも優しくて良かったよ。」と
母さんはね そんなお前を どんなにか
誇らしい気持ちで見ていたか
解って欲しかった 幼いお前がまさか

幼いお前がまさか 幼いお前がまさか
まさか
こんな事になろうとは

お前の頬に落ちた
父さんの涙の温かさにも気付かず

幼いお前がまさか 幼いお前がまさか
幼いお前がまさか 幼いお前がまさか
まさかこんな事になろうとは

母さんはね てっきりお前は いつもの様に
ふくれたまんま 寝てしまったんだと
思っていたのよ

*★*――――*★*

『似非紳士偽淑女』
I say good by my girl to you once more agein
出逢いの時の溜息は 
優しい人と囁いていた
夜更けのスナック 
ボックスでほろ酔い気分に潤んだ瞳
薄暗がりに流れてるのは 
少し遅れた流行り唄
グラスを傾けお前と俺 
回りにあてられ求め合い

I say good by my girl to you once more agein
ネオンはずれの連れ込みホテル 
横眼で眺め当てもなく
切り出せないまま 
歩いたが胸にすがった別れ際
コートの胸の残り香が 
暫く続いていたくせに
裸の体知らぬまま 
気ままに二人すれちがう

I say good my girl to you once more agein
どこに居るのか何してるのか 
あの頃の全て思い出に
お互い醒めてた 
付き合いと他人同志で知らぬまま
出逢いの時の溜息は 
優しい人と囁いていた
今では他人のお前と俺
優しい人と言えるかい

*★*――――*★*

『牡丹雪』
あの人に嫌われたあたしの涙は
どこに捨てればいいのかしら
何も見えない表通り
あたしを包み降りしきる牡丹雪
飛び出したのはいいけれど
行く当ても見当たらないあたしに思えば
あの人はいつも優しかった

あの人が初めての男じゃないのに
きっかけはいつもささいなもの
想い切なくこみあげて
見上げた空に降りしきる牡丹雪
電話を掛けて謝れば
独人凍えているあたしをきっと
あの人は一言で許してくれる

あの人の性格は知っているつもり
思い詰める程の事じゃないけど
何故かためらうあたしの肩に
重たく降り積もる牡丹雪
笑顔に戻り引き返そうと
笑おうとした時思わず涙
あたしっていつもわがままばかり

笑顔に戻り引き返そうと
笑おうとした時思わず涙
あたしっていつもわがままばかり

*★*――――*★*

『朝日楼』
朝日さえ当たらぬこの長い廊下
軋みだけが響き渡る
亡きがらを引き取りに 
亡きがらを引き取りに

売られて連れられ廓の網
格子窓から手を出して
遊客に色を売り 
遊客に色を売り

組み敷かれ色声漏らしながらも
どこか覚め夢見る
いつの日か出れる日を 
いつの日か出れる日を

かげろうの身はかなく露と消え
長く見た夢が叶う
今やっと自由に 
今やっと自由に

朝日さえ当たらぬこの長い廊下
軋みだけが響き渡る
亡きがらを引き取りに 
亡きがらを引き取りに

*★*――――*★*

『味源』
有楽街の小便通りを右手に曲がると
ひなびた並びの中にあるお店
Oh ヘンリー
久し振りだね聞かせておくれよ
コルトレーン
客は悪いがオイラ一人さ
今度はヤツも 連れて来るから
憧れのニューオリンズ
夢見ながら
語っておくれ尽きない話を
いつもの味源でさ

雨降りしのぎにのれんを分けて軋む戸開ければ
パイプをはずし笑顔で迎えてくれる
Oh ヘンリー
今夜もまた聞かせておくれよ
コルトレーン
話は弾み気分は最高
いとしいあの娘も 連れて来ようか
いつかやりたいフルバンドに
夢はせて
語っておくれ尽きない話を
いつもの味源でさ

Oh ヘンリー
そんなのいいから聞かせておくれよ
コルトレーン
いつかオイラも唄ひとつで
一山当てたら みんなで来るさ
その日が来るまで楽しみに
夢見ながら
語り明かそう尽きない話を
いつもの味源でさ

*★*――――*★*

『バラード』
焦がれた想いのラブソング
ミルクで歌った時
流した涙は何処へ
行ってしまったんだい

お別れはいつも
あの娘の方からで
おいてき堀のボクは
笑顔で手を振るばかり

君は君のままで
僕は僕のままさ

もう二度と前の様に
会えないかも知れないね
でもそれはやっぱり
僕のせいなんだ

君の心の中で
いつしか僕が消え
思われることが重荷に
変わってしまったんだよね

君は君のままで
僕は僕のままさ


自由詩 二十二歳に書いた歌詞 Copyright 板谷みきょう 2022-02-13 23:19:46
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