コウモリとひきこもり
末下りょう

夕暮れのざらつく人恋しさに飛び立つ平らなコウモリ


あまりあてにせずに
待つはずの
きみ

裸足の猫は垣根に消えた

せんべい布団に横たわり
断雲を眺め
さまようなにかの羽が最初に聞いた肉声になる


茹だる夏に
かたくずれしたキャラメルを一粒 虫歯だらけの口に放り込み咲き乱れる花びらは雷
一閃の


すべての花びらは爆発
へんてこなかなしみ さびしみ
ヤドカリ

見かけとちがう声を探して
見かけとちがう影を燃やして
掛け布団と敷き布団のはざまで迷子になり 夕暮れに叱られる一つの顔は二つの心臓になって
言葉を探している


(まに あっと 面食らう
闇の
野放図
近所のべらぼうな悪童が何気なく足を止めて見上げた空みたいに
肝を冷やして肝をつぶす物好きな闇の野放図)

薄っぺらな板でできた
部屋を
まざまざしい害獣のようにうろつきだす
二つの鼓動は
バクバク部屋を飛び出すと

昨夜の
投げやりな叙述が
未熟な通り雨みたいに
後をついてまわり

ぼくの耳は壁に消えて舌は灰の味しか知らないことを知り
素肌にそばだつ言葉に戸惑い
このうえなく
すべからく
穏やかそうな
時間が
西に向かう
濡れた芝は竜の鱗でも亀の甲羅でもかまわないと

線の束でできたものたちは
平らなコウモリの翼で出逢うだろうから





自由詩 コウモリとひきこもり Copyright 末下りょう 2022-02-04 17:08:38
notebook Home 戻る