桜の蕾を手のひらにのせて
服部 剛

よく晴れた昼過ぎ
満開の桜の木陰にすいよせられて
黒い幹にもたれ腰を下ろしていた

桜の花々は音もなく風にざわつき
ふと 辺りを見わたすと
桜の蕾等つぼみら
強い春風に細い枝ごと折られ
土の上に落ちていた

今朝、お婆さん達を乗せた車で
老人ホームの門に入った時
枝々にあふれる薄桃色の花びらを風に揺らし
諸手もろてをあげた表情で
私達を出迎えてくれた桜よ 

家にこもっていたお婆さん達が口々に
「まぁ綺麗・・・!」と瞳を輝かせ
しぼんでいた頬をほころばせ
共に乗っていた若い僕の胸をも
薄桃色の想いに満たしてくれた桜よ 


やがて風に散り 
宙に舞う桜の流れは
川の水面みなもに浮く


土の上に身を伏せた
細枝にうつむく蕾等を僕は拾い
手のひらにのせて
水を入れた小さい器に生けようと
静かな部屋へつれてゆく






自由詩 桜の蕾を手のひらにのせて Copyright 服部 剛 2005-04-30 00:04:31
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