喫水線
茶殻

全てを覆い尽くすほどの光がさすとき
私の影は私自身にほかならない
落書きの女は次々に書き足されてなお
靴がなかった

迷子の光が
真夜中に閉じ込められたとき、
公園の街灯がそれをほお張ったとき、
その光の腹を開くのは羽化したばかりの蝶

海の向こうの街角を撮る
蜃気楼にそびえる十字架や
信号機の汗の粒までも懐かしむ
ジプシーの血を物語に垂らして異郷に虹を架ける

浮上する光
戦争と幻想が交差する
ストップモーションから現れる獣の目の少年
背景を徐々に失い彼は鋭敏な自我を晒す

こぶしをはみ出すほどの鉄鉱石を握りしめて
木の扉を何べんも叩いた
聾者の隣人さえも様子を伺って小さく門扉を開けた
少年に宿る神には川を越える翼がなかった

猫の首根っこを掴みながらアオザイは西の地平に指を差した
流れ星の行方と彼女の眼を繰り返し示した
振り向くと
初めての情熱がたしかにあった

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ときにひとびとは命を絶つだろう
あなたのそばで
あなたの祈りの中で

塔は鋭く峰を描く
三次元を突いて
超次元に向けて

情熱の甘露を享受する
いま あなたの祈りから
巣立った少年の

あれは 羽根だ
テープとともに解纜した船は
風のまま大洋をゆく

喫水線を上下する波に
呼吸の本能を知る
彼はゆく 大洋をゆく


自由詩 喫水線 Copyright 茶殻 2022-01-01 01:53:36
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