ひとつ
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ひとつ


  *


ついさっきまで雪だったよ
 どうだった、雲から離れる気分
寒かった
 雪なのに
めちゃくちゃ寒いよ
 覚えているの?
ううん。でもわかる。はなれた瞬間、寒いっ! て
それから風にふかれて溶けたんだ
 俺はさ
覚えてるの? うまれたの
 どうかな、たまに夢に見るかも
どんな?
 それまでのあったかい光とはすごい違って混乱していて
 まるで戦いの炎だなって
ほら、寒いでしょ
 あれって寒いのか?
だから、雪は寒いんだよ
人だったら、それが痛みになる
 つまり、雪だから寒くて
そう、人だから痛む
 他の雪もみんなそうなのか
寒くない雪なんてないよ
寒いからあっためられるし
 それじゃあ、人間の
そう、痛みも
 いのちのあらわれってことか
きっとね
 とり留めないな
一度でもはなれちゃったらね


  *


 じゃあさ、雲ってなんだい?
たくさんでひとつ、かな
 よく聞くはなし
まぁ、ね。でも今だからそう言えるんだと思う
 ちょっとぴんとこないな
でしょ?
 でしょ? ってなんだい
人間もそうじゃない
 人間が?
ぼくにはそう見えるよ
 人間は・・・・、人間ってなんだろうな
あなたでしょ?
 いや俺は、そりゃ人間だけどさ
雲とぼくだよ
 人間と俺ってこと?
たぶんね、あなたはあなたのことしかわからない
 そうだろうな
でもひとつの人間でもあって
 たくさんでひとつ
そうそう、たくさんでひとつのひとかたまり
 そう言われたらそうかもな
ね、ぴんとこないでしょ
 あぁ、ちっともこないね
 それになんだかはぐらかされた気がしてる
質問がむずかしかったから
 答えようがなかった
伝えにくいことってあるよね
 あぁ、あるな
それでさ
 うん?
ぼくをどうする気?
  ・・・・・・・・
急に黙っちゃわないで
  ・・・・
 それもまた伝えにくいな


  *


で? どうするの
 お前はどうして欲しい
どうしてもらっても構わないけど、出来たら
 出来たら?
すぐに沸かしたりはしないで欲しいな
 沸くとどうなるんだ
チンチンってばらばらになっちゃって
それからのこともよくわからなくなる。はず
 覚えていないが分かる
散っちゃったあとのぼくは
雲からはなれたぼくとおなじで
それまでと違っちゃうだろうから
 なるほどね
ぴんとこないでしょ
 これまたさっぱり
だからさ
 ああ
すぐには散らばりたりたくないんだ
 そうだな
でもいつかはそうなるんだし、怖くはないよ。ただ
あとすこし、このままでいたいかなって
 俺もだいぶ冷えてきた
雲がおりてきたから
 コート、取りに行かないとな
街の動きも、かたかた
 かたかた?
夏はゆらゆら、冬はかたかた


  *


ねぇ
 うん?
あなたがさっきからなに考えてるかあてて見せようか
 当たるかな
あたるよ。分かるから。あなたがぼくをどうしたいのか
 そうですか
じゃあ、はい。どうぞ
  ・・・・・・・・
ねぇ、しないの?
  ・・・・
 それと沸くのとは
ぜんぜん違うよ! こんなのめったにないことなんだから
どきどきするんだから。だから、ほら、さぁ
 ちょっとうるさいな、周りが見てる
しないのならいうよ
あなたがぼくをどうしたいのか、それは
 わかった、わかったよ
じゃあはやくして
 そんなに急ぐことないだろ
あなたが平気でも、ぼくはだんだん散ってっちゃうんだよ!
 そりゃあ、そうだよな
常識でしょ、子どもの科学だよ、もう
 よし、やるか
うん!
 じゃあな
はやくひとつになろう


「ぺろっ」


 さっきまで雪だった、お前と俺の



散文(批評随筆小説等) ひとつ Copyright soft_machine 2021-12-17 18:45:22
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