image/damage
ただのみきや
*
せり上がった斜面から景色は傾れなかった
すっかり土色になって個を失くしつつある
落葉の層の乾いた軽さ 熊笹の有刺鉄線
汚れた雪がところどころ融け残っている
眼は狐のように辺りを嗅ぎ回った
いまだ飼い馴らせない若さの亡霊
だがいっこうに綺麗どころは見当たらず
ぼやけてゆく時間
片言をつかみそこねて踏み外す
*
一 行 の
黒い 文字が 白 い
糸 の
た
な
びく
縮れに
か
わ
る
と
そ
の微かにひらいた時間
静かに満ち
た
香も
や
が て は
うす れ き え
て
残った
灰 に
横
た
わる
黒い燃 え 差しか ら
ふた
た び 意 図 を
手 繰ろう
と
再
生される記 憶
紐
づ
け
ら
れ
た 感
傷
に
捧 げ られ る 賛 辞
死 ね
ば パ
ペ ッ
ト
*
一日が果実のように落下する
爛熟の果てに落下した
意識の行方もまた知れず
意識を落としたのか
意識から落ちたのか
思考と感覚
二つの懐中電灯が一度に消えた
電球が切れたのか
電池が切れたのか
わたしがいのちを落とすのか
いのちがわたしを落とすのか
梢の高みにあった金の林檎も
今や早贄の萎んだ心臓
無数の手に招き寄せられて
地の抱擁に液化する
半加速的に刹那をたなびかせて
わたしは太陽だった
一つの黒点に集約されて
行方は知れない
*
形はゆっくりしている
得るための時間を内に秘め
理を比喩的に体現する
来続けて在り続けて去り続ける
停止した動態のゆるやかな継続
辺りを歪めるほど
あやうく保っている
*
冬の日差しが奥まで踏み込んで来る
こちらの不用意にも気兼ねせず
にわかに悲哀を照らしてくれる
暗い格子の向こうでいつまでも
気狂いを孕み続ける女の白い脚
*
光を拭う
止めどなく揮発する
音の香
精液は
眠らない月への投身
突き出した
脊髄から蝶は眩く
覚める
虹色の乱数
みだらな綾とりに
裾をたくし上げる
変色した依り代の
詳らかではない
比喩の脂粉
抽斗で泳ぐ
緋鯉の口もと
琥珀の声が
辞書をくべる
沈黙の絶叫よ
男に擬態した
ひとつの物語
菌糸が腹まで達し
帽子は脱げなかった
兎の 傷
ももゐろの嗤い
《2021年12月12日》