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ただのみきや


せり上がった斜面から景色は傾れなかった
すっかり土色になって個を失くしつつある
落葉の層の乾いた軽さ 熊笹の有刺鉄線
汚れた雪がところどころ融け残っている
眼は狐のように辺りを嗅ぎ回った
いまだ飼い馴らせない若さの亡霊
だがいっこうに綺麗どころは見当たらず
ぼやけてゆく時間
片言をつかみそこねて踏み外す





            一 行 の
黒い 文字が 白 い
 糸 の

 な
  びく
    縮れに
       か
      わ
       る
        と

の微かにひらいた時間
  静かに満ち
  た
   香も
       や
が て は
   うす れ き え
           て
残った
  灰 に
    横
    た
    わる
     黒い燃 え 差しか ら
 ふた
  た び 意 図 を
         手 繰ろう
            と
再 
 生される記 憶
      紐
    づ
     け
    ら
     れ
          た 感 
             傷
  に
捧 げ られ る 賛 辞
     死 ね 
       ば パ 
            ペ ッ 
                ト





一日が果実のように落下する
爛熟の果てに落下した
意識の行方もまた知れず
意識を落としたのか
意識から落ちたのか
思考と感覚
二つの懐中電灯が一度に消えた
電球が切れたのか
電池が切れたのか
わたしがいのちを落とすのか
いのちがわたしを落とすのか
梢の高みにあった金の林檎も
今や早贄の萎んだ心臓
無数の手に招き寄せられて
地の抱擁に液化する
半加速的に刹那をたなびかせて
わたしは太陽だった
一つの黒点に集約されて
       行方は知れない





形はゆっくりしている
得るための時間を内に秘め
理を比喩的に体現する
来続けて在り続けて去り続ける
停止した動態のゆるやかな継続
辺りを歪めるほど
あやうく保っている





冬の日差しが奥まで踏み込んで来る
こちらの不用意にも気兼ねせず
にわかに悲哀を照らしてくれる
暗い格子の向こうでいつまでも
気狂いを孕み続ける女の白い脚





 光を拭う
止めどなく揮発する
音の香
  精液は
眠らない月への投身
突き出した
   脊髄から蝶は眩く
      覚める
   虹色の乱数
   みだらな綾とりに
    裾をたくし上げる
       変色した依り代の
   詳らかではない
  比喩の脂粉
    抽斗で泳ぐ
     緋鯉の口もと
       琥珀の声が
   辞書をくべる
    沈黙の絶叫よ
男に擬態した
  ひとつの物語
    菌糸が腹まで達し
     帽子は脱げなかった
  兎の 傷
   ももゐろの嗤い



                《2021年12月12日》    










自由詩 image/damage Copyright ただのみきや 2021-12-12 13:25:26
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