頭痛の種をつまみにして
ただのみきや

換気

現実は醒めない夢
一生いぶかしみ
出口を模索する
後ろで窓が開く
気配だけが淡く恋





かくれんぼ

風もないのにブランコが揺れた
瞳の奥の赤錆びた沈黙
死者の睦言
耳たぶを咬んでぶら下がる邯鄲かんたんの声
黒電話のダイヤルを回す
少女のようなハンカチに包まれた
冷えた臓物に脚が生え
休耕地から這い出した
祖父母の影が踊っている
そわそわ斑にうず巻いて
闇に舐られる供物の乳房
風もないのにブランコが揺れた
誰も彼も隠れたきり
鬼灯みたいに透けて
ぼんやり赤子が灯っている





自慰に殉じる

乾いていく泥の上
つがいの蜻蛉とんぼが産み落とすもの

溺れながら影をあやして
なぞるように壊してしまう

――あなた
見たことも聞いたこともない何かの欠片を握って
夢心地――そんな所在もない墓標を故郷のように





風葬花嫁

つよい風がわたしを抱きすくめる
目も開けられず翻弄される
突き飛ばすようで尚もわたしを抱いたまま
油壺でも砂糖壺でもないこの器から
灰を全てさらってゆく
ごうごうと鳴り響く中に囁きがあった
――それが最後
終止符もない広い余白どこまでも高く



               《2021年10月10日》














自由詩 頭痛の種をつまみにして Copyright ただのみきや 2021-10-10 12:31:07
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