徒然に散文的詠歎を
ただのみきや

持て余すではなく弄ぶ
徒然に
  雨垂れの独白を
聞き入るでもなく聞き流し
滴る血の鯨肉
  アメリカの小説を想う


コロナという病が流行り出したころ
あおりを食ってコロナビールが生産を停止したと聞いた
ところが今日行きつけのスーパーに
特別コーナーが設けられているではないか!!!


アマリア・ロドリゲスの歌を聞いた時
当たり前のようにメキシコの歌手だと思った
ブラジル音楽もよく聞いているのだから
スペイン語とポルトガル語の違いくらい
気付きそうなものだけど
ファドの歌手だと後から知った


ポルトガルの歌を聞きながら
メキシコのビールを飲んでいる
始めて飲んだがそんなに美味いわけではなく
原料にコーンが含まれているせいなのか
甘い気がする あと薄い感じも


数日前に息子が鯨の刺身を一柵買って来た
安価だったのは血抜きが足りなかったからか
バーナーで炙りにして食ってみた
いっそのこと今度は切らないで
ステーキにしてみようと話した


小説「白鯨」の時代 
アメリカの捕鯨船の目的は肉ではなく油だった
だが小説の中で二等運転士のスタッブが自分で倒した
抹香鯨の肉をテーキにして食べる箇所がある
当時ではちょっとしたゲテモノだったろう
日本では珍しいことではない
子どものころベーコンと言えば鯨だったし
給食では鯨カツが出た
となり街の小樽では今でも正月に鯨汁を食べる家が多い
これもまたなかなか美味いものだ
だからシー・シェパードの連中にはただただ
「血の滴る鯨は美味かった また食ってやる」と伝いたい
口の周りを血まみれにして
だが血まみれの口もとが一番似合うのは
透けるような青白い肌をした女だと思っている


鯨ステーキにコロナビールではちょっと弱い
息子はビールを飲まないので焼酎かジンのロックが
いいだろう
今年の夏はついついビールを飲み過ぎて
腹回りに肉がついてしまった
また安ウイスキーに切り替えようか
だが最近は蝙蝠印のラムも気に入っている


鯨肉から四日後
雨から二日後
リンダ・パーハクスを聞きながらこれを書いている
さわやかな風が吹いてきて
音楽の外からは子どもらの声がする
上の階に住んでいる小学生の兄妹
それはとても可愛くない子どもたちで
わたしはちっとも好きじゃない
カメムシでも鼻腔に入って泣けばいいと思う
もうそんな季節


文化が人をふるいに掛けるのか
時代が人を篩に掛けるのか
だがモノの見方なんて所詮は化かし合い
理解とは自分の頭に収まるサイズに直すこと
クッキー型で穿つように奇麗にスッキリと
矛盾や都合の悪いものを切り落とすこと
そうしてこじんまり仕上げた理屈の構造物を
言葉で出し入れして見せることだ
自他をそこに繋ぐためのお題目のように


とっさの出まかせは正直だ
インスタグラムと盗撮
タイトルさえ付けなければどちらが真実か
神は四六時中人を見ている
風呂もトイレもセックスも
頭の中も感情の動きも全て
あきらめることだ


樹々の葉もたそがれて
今朝は日差しも少々荷が重いよう
とんぼたちはゆるゆると
とけ まじりはじめる
あのあいまいなりょういき
ほころびのかなたにある
 こころのどこか


シドニアではなく
ピークドでもなく
アニアーラだと思う
わたしの乗ったこのたましい
鯨も敵も影も形も見当たらず
上下も左右もなく過去も未来も定かではない
虚無の真中の深淵へ
     静かに傾いで


       
                《2021年10月3日》








自由詩 徒然に散文的詠歎を Copyright ただのみきや 2021-10-03 13:48:14
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