わたしの宿題
石田とわ



     だれもいない畑の真ん中で
     愛くるしい笑顔と
     くるくるとした巻き毛を持った少女が
     火を放った
     そうしなければならない理由を
     少女も知らずにいた
     それはだれにもわからない少女の
     苦悩であり、
     悲しみであり、
     叫びだった
     火は赤々と燃えるはずだったのだろう
     けれどどこまでも黒く燻り続け
     何もかもを燻し続けた
     少女の絶叫とともに。


     彼女はまだ十六だった
     愛くるしい笑顔もその巻き毛も
     彼女のもとには残らなかった
     残されたのはあまりにも無残で
     過酷な現実だけだった
     それでも彼女は泣きながらも
     必死に生きた、生きようとした
     その彼女も今はもういない
     それからの数年を病院で過ごし
     息を引き取った


     何十年たった今でも
     たびたび彼女を思い出す
     交わした手紙は今も手元にあり
     その文字は大きすぎて、曲がりくねって
     十六の彼女の文字ではなくて
     不自由になった手で必死に書いた姿が
     あまりにも悲しくて
     なにより行間に浮かぶ彼女の後悔が
     胸に突き刺さる


     こうしている今もどこかで
     彼女のように叫びだす少女がいるだろう
     子どもだったわたしには何もできなかった
     その叫びすら耳に届かなかったのだ
     大人になった今でも何かできるとは思わない
     けれどその叫びに耳を傾け
     一緒に泣くことならばできるだろう
     耳を研ぎ澄まし、目を見開いて
     小さな小さなSOSを
     見逃さないようにすることが
     彼女の友人であったわたしに残された
     宿題なのだとおもう





















自由詩 わたしの宿題 Copyright 石田とわ 2021-07-26 00:06:55
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