浜辺のひと
たま

海水浴場でバイトしている
七月の偶数日と
八月の奇数日が出勤日
つまり、各日ってこと
主な仕事は
海水浴場のトイレ掃除と
浜辺のゴミ拾い
朝八時から午後三時まで
三十分仕事して、三十分休憩する
というのは
シルバー人材センターの仕事だから
無理はできないのだ

もう五十年前のこと
高三の夏休みに
海水浴場でバイトしたことがある
住み込みだったから
ひと月余り家には帰らなかったが
『COM』の発売日には
二両編成の紅い電車に乗って
街中の書店に行った
九月号の表紙は
和田誠のイラストだったと思う
家には『COM』のバックナンバーが
すべて揃っていた

二ヶ月バイトして
稼いだ金は愛犬の養育費になる
わたしの年金だけでは
アトピーの薬代も
ドクターケアの高価な餌代も
とうていひねり出せない
じつに、涙ぐましい話しだが
そうではない
五十年ぶりのバイトを与えてくれた
愛犬に
感謝している

けど、
夏はまだ始まったばかりだし
『COM』はもう書店にはないし
浜辺のわたしは
退屈でしかたがない
たぶん、
顔ばかりが日焼けしたわたしは
年輪のない
炭になるのだ













自由詩 浜辺のひと Copyright たま 2021-07-19 15:07:20
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