七月の雨
山人

 山域は乳白色となり、雨粒が地面を叩く音が、朝未明から始まった。決まって七月は、雨が多いと、誰彼なく言うのだった。
 雨が満ちてくる。体の中にも脳内にも、まるで人体は海のように静まり、宇宙のように孤独になる。
 半眠りの意識の中、タオルケットの感触が心地よくて、そして柔らかく寝返りを打てば、雨音が骨まで入り込む。私という人体模型は、雨を歓迎しているのだろうか。
 七月は、どこか物悲しい。半袖に突き出た二の腕のまとわりつく湿気が、ニイニイゼミをよぶ。
 空は粘っこく泡立ち、息を止めている。
どうか、助けてください、
声にならない声が小窓から出ることなく停滞している。
 七月は、湿り気で飽和され、落としこまれた安寧が発酵し始める。ぶつぶつと菌が活動をし始め、巨大な入道雲を、埃っぽい陽向のにおいを、待っている気がする。


自由詩 七月の雨 Copyright 山人 2021-07-11 05:50:34
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