死作――詩に至る病としての
ただのみきや

どうしようもないこと

絶望を綴ることに何の意味があろう
だが綴ることで絶望は虚構に変わり
また綴ることで希望すら捏造し得るのだ
詩は演劇性を持つ  
演劇は祭儀であり呪術である
詩作への没入は一種のもの狂いであり
恍惚とカタルシスをもたらす
だが書き上げてもなお
浄化し切れない何かが残る
だから繰り返されるのだ
聖と俗を繋ぐものとして

 

感性のまま書いたつもりでも
背後霊のように理性は写り込んでいる
そして理性もまた隠蔽された感情の
リードで巧みなステップを踏むのだ
素敵な読み手目線 よそ行きの真実で

詩作は快楽であり苦痛である
詩が手段ではなく目的になってしまった
ジャンキーを詩人だと思うことはあるが
詩で世のため人のため役立とうとする人の
美しい誤謬がいつまでも続いたら良いとも思う
桃という言葉が醸し出す
すこし腐りかけた匂いに酔うように

 

語るべき伝えるべき大切な言葉があるとしたら
それはわたしの詩ではない

時代に根差すこともなく流れ漂う浮草のように
自分がなにものかもすっかり忘れて





樹化

樹はもっとも言葉から離れた人間
鳥や虫より寡黙に
ただ風の戯れに任せて
生涯そこに在る
選択でも諦めでもなく
ただ己として己に立つ
影を点けたり消したりして
日時計のように巡らせている
光に穿たれたぼろぼろの影を
やがて分厚い寒さだけを一枚纏う
素描の裸婦像
その肌は雪を融かさずにそれと和む
恋人から襟巻でもかけてもらうかのように
だが春には一年間溜まり溜まった想いが
言のない葉となって一斉に芽吹き出すのだ
無数の記号には裏表があり
見つめる光で色味を変えながら
風の声音で朗読されるが
その音と心はしっかりとは結ばれず
意を定めない ただそれを
総身で浴びる心地良さ





死作の勧め

誰もどこにもいない
川べりの
柳の下で
わたしは棺に入る
仮病で早引きした学生のように
疲れた男がベッドに倒れ込むように
自死とはその程度
告発も抗議も恨み言も
しゃれた遺書も要りはしない
何をもってもつり合いはしない
つり合いを捏造する気もしない
水辺の緑の中で
内側から閉じるのだ
死が甘美な妄想であるうちに
人は死ぬべきだ
予行練習はなし
今日は見に来ただけなのに
ついローンで買ってしまう
売り子にではなく
自分を可愛がる自分にほだされて
限りなく自閉的に
白く泡立つ錯乱に
ぱっと意識を散らしてしまえ
種子を持たない綿毛のように





さらに、どうしようもなく

詩が詩のまま全うされ息を引き取るのは
二連目まで(あるいは二行もしくは2sentenc)
どれほど逃れても何等かの
暗示的意味に帰着しようとしてしまう
まるで実母を嫌って家出した息子が
外の世界で別の母性を求めてさまようように

言葉は等価ではない
だからいつも比喩なのだ
だからこそ端数が残る
こころは素数だ
己(X) そして1(在ってある)以外では割り切れない
己(X)÷己(X)=1(在ってある) 
「わたしが何かは不明であるが、わたしとは一個の
不明なわたしに過ぎない」――だから何だと言うのだ
だが己(X)÷1(在ってある)では
わたしの全ての欲望が神の摂理の中の砂塵へと解体されてしまう

詩でこころは割り切れない
書いてもなにかが余る
書いたものに届かない
それなのに詩作を繰り返す

たましいは堕落している
生きるためなど方便
生を誤魔化すために
神が創造しなかった煉獄を創作し続けている
詩は地獄を模した壁紙だ
天国のように美しければ尚更のこと





こうして時は過ぎて行く

砂糖壺に隠したアンモナイト
三億年の悪戯
あなたを狂わせたい一心で
これから失くすものを捕まえようとした
風の中の麦わら帽子
ポプラの一番高い梢で行方不明になった母は
海の底から響く鐘
紙で切るような痛みが西日から
笑い
青い胞子をまき散らす
破線を渡る
裸足の声がヒリヒリと
愛を反転させた
瞳の夜の半球で
毛の長い羊が音を食む
夜光虫のような手が
わたしの胸を裂きに来る
娘の失くした片目のように
恐怖に似た何かが美しく余韻を引いて
わたしは沸々と溶けてゆく
満天の言葉の下の
大河のような黒い沈黙へ





視線感染Show

言葉をいくつ塗り固めても
墓石のひとつにもなりゃしない
発酵しない景色の躁状態 錯乱だ
A4サイズの洗面器で沈没する捕鯨船
溺死するために裏返された瞼に蝶を閉じ込めて
おまえの期限切れの免許証が月の背中を掻いている
ああ浮上するものと沈むもの
水面を挟んで相殺される男と女ニュースタイル心中
こめかみに咲く紅い水中花
摘みに来た子どもの揺り椅子に犯されて
縞模様に消化されてゆくおれの頭はいつだって
小さい方の葛籠つづらの中で南極を齧っていた
毎日机に向かって句読点を磨くヘレンケラーの
忘我のよだれみたいに澄んだまま
だから引力を失って胎児の体を飛び出した夢は
ノイズをまき散らし膨張し続けるだろう
虚空を喰らうジンベイザメのようなおれに
絡まり空回って追い縋る眼差しの二重らせん
サラセンのケセランとルクセンのパサラン
回線の混乱と涙腺の反乱こそ
おまえの中のおれ―――詩に至る病
視線感染新幹線



                   《2021年5月30日》









自由詩 死作――詩に至る病としての Copyright ただのみきや 2021-05-30 15:43:02
notebook Home 戻る