安息日に詩を書くことは許されるか
ただのみきや

猫のように見上げる
空のまだらを
鳥に擬態した
ひとつの叫びが
紙のように顔もなく
虚空をかきむしる

骨の海から引き揚げた
もつれた糸のかたまりを
自分の鼓膜にしか響かない声を持つ
女の眼差しが
金の蜂蜜で燃やしている

直立したまま朽ちて行く
花は賛歌
そして生贄として
巻貝の夜の胎へねじれながら
死の被膜を突きぬける
盲人の視線が射とめた震え

窓ガラスにぶち当たって
落ちて行く
ヒヨドリのかすかな
息の赤さ
うたがい深い四肢をひろげて
草木は思考を阿弥陀におおう

棘のある四肢の抱擁で
口笛もまだ吹けないまま
幼児は自らを捕食した
ひとつの球体は
光と闇の境界を絶えず移動させる
恋人という鏡を持たないまま

ただことばの地図だけが
生まれることを許さなかった
五感は想像と溶けまじり
楽園であり地獄である
遊園地が
風のように肉化して
またも鳥を咥える

白く泡立って
つまびらかなもの
だが蛇の頭を捕えそこなうように
復讐されて
さめざめと伝い
指先からしたたるもの
今はもう青黒く
痙攣した記号

わたしは神により
希望を孕み続け
それを川に流しつづける
一人の母親
壺の中で愛は毒にかわり
嗅ぐごとに
記憶は満ちては欠け
詩は隠蔽された墓

毛穴という毛穴がさえずって
結びほどけるはらわた
蝶は息もたえだえ
秘密をハミングする

小脇にはさんだ顔の
凹面の走り書き 錯視は
祈りのまま引きあげられた
苦痛の球根へ
早贄にされた舌よ
生きながら鎮魂されよ
発語とその味覚の
甘い淫夢の最中
死の道程として詩
その逆もまた


            《2021年5月22日》








自由詩 安息日に詩を書くことは許されるか Copyright ただのみきや 2021-05-22 13:52:39
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