闇も光も、すべて俺自身が作り出したものだ
ホロウ・シカエルボク


お前の指先が深く沈めた、か細いものの吐瀉物を辿って、黒ずんだ血だまりに俺は辿り着いた、心許ない記憶みたいに浮かんでは消えていく泡はまるで戦争のようだ、俺は気を吐いて手首を切り裂き、流れ出る血をそこに追加する、利口なものよりは愚かしいものでありたかった、作法を守って少しずつ口に運ぶよりはなりふり構わずむしゃぶりつきたかった、だってそうだろう、俺がポエジーと口にするとき、そこに秘めているものの大半は耐え難い叫びなのだから、お前には分かるまい、習得した作法と文法で綴るお前には…血だまりからは俺の顔をしたナマズのような化物がべしゃりべしゃりと水面を鳴らしながらこちらに上がってこようとしている、俺の血を求めているのか、それとも俺に忠誠を誓いに来たのか?お前が俺の為になにが出来るというのだ?その醜い、悍ましい姿を曝す以外に…?俺はそいつを抱き、静かに、ゆっくりと力を込めて、そいつの首をへし折る、そこには見た目からは想像できないくらいのきちんとした骨があった、もっと黒い血を吐いて、そいつは動かなくなる、そしてー塵になって地面へと吸い込まれていく、あっけない死、うんざりするような死、挙句の果てに残すことすらしようとしない死…俺はいらだつ、けれどそのいらだちをどうすればいいのか分からない、血を抜いたせいで少し覚束ないー視界も、思考も、足元も…俺はどす黒い血を使って、ぬかるんだ足元に抽象画を描く、誰に見せるものでもない、俺自身がいくつかのプロセスを確認し、納得するための作業だ、首の中で折れる骨の感触が消えるまで描き続けなければならない、死にとらわれることは危険だ、特に、俺のような人間にとっては…俺がなにかを書くとき、それが文章であろうと絵であろうと、正解というのはひとつだ、そいつがのたうち回っているのかどうか…それだけさ、俺は自分の身体を掻っ捌いて内臓をばらまいているんだ、お前がいま見つめているのは俺のはらわただよ、そいつは間違いないー黒ずんだ血だまりの上で鈍重な光を落としている太陽は濃い緑色だ、想像したことがあるか?太陽が緑色をしているなんて…まるで脳味噌にバグを起こさせるためだけに輝いているみたいな感じがする、肩に優しく触れるような絶望が勝機を窺っている、足音が聞こえた気がした、背後から…世界はいつだってナマズのように進む、目的を失くした盲目どもの行進だ、俺は一度だってその列に並んだことはない、それは俺の誇りだーたった一人で追うべきものを追い続けて、きっぱりと死んだ人間になりたい、お前にはそれを見ていてもらいたいのさ、抽象画は、燃えるー閃光のような炎だ、焼き尽くす、焦燥を、膿を、澱んだ夜を…肉の爆ぜる臭い、俺は悲鳴を上げる、恐怖が全身を貫く、駆け抜ける、燃え落ちて、灰になって、堆積し、風に消え、そしてー再生される、初めてのことのように、それまでと寸分狂いのない俺がまたそこに立っている、その根底には怒りがあるー昔、そう言われたことがあるーそれはきっと衝動と大差ないものだ、どちらの名で呼んでも差し支えないものだ、俺はぬかるんだ足元にうずくまり、犬のように、掘る、掘る、掘る、掘る…漆黒の溶岩が吹きあがり、俺を飲み込む、俺は溶岩の中で、その熱の中で、蠢くものの中で、湧き上がるしかない、吹き上がるしかないものたちの宿命を飲み込む、あるラインを超えた熱は閃光と変わりない、そこにあるのは目を潰すような眩しさだけだ、なにを探しているのか?なにを得ようとしているのかー?それは考える必要のないことだ、望むままに、求めるままに動き続けていれば必ず必要なものは手に入る、その瞬間ではないかもしれない、もしかしたら少し後になるのかもしれない、けれど確かにそれを手にしたと気づくときは来るだろう、答えなど探し出すものじゃない、通過した後に初めてあれがそうだったのかと知るものだ、俺は燻りながら溶岩を抜け出す、体温がまともになるのを待って、静かに目を閉じる、衝動が導くもの、その後で生まれてくるもの、答えなどどこにもない、あるのは体感と認識くらいだ、それを答えと呼ぶのならたぶんそうなのだろう、でも俺にはその気はないー血だまりは蒸発を始めた、吐気をもよおすほどのおぞましい蒸気だった、やがてそれも掻き消えた時、あとにはみすぼらしい器だけが残った、かたちはなくなる、かたちはなくなる、だからこそ、俺は…。



自由詩 闇も光も、すべて俺自身が作り出したものだ Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-04-18 21:57:31
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