つぶやかない(三)
たもつ



僕の魂の一部が
川面を流れて行く
自信がなかったので
側にいる人に聞いたら
あなたの魂の一部です
と、確認してくれた
魂の一部はこのまま海まで流れ
小さな生物に消化や分解をされ
新たな生命や魂を育む
おそらく僕も
かつてそうしてもらった
(午後0:45 · 2021年3月14日·)


夜の街を魚が泳ぐ
水がなくても
魚だから泳ぐ
名前が知りたくて
図鑑を調べるけれど
様々な色や形などに夢中になって
わたしの魚を忘れてしまった
(午前6:52 · 2021年3月15日·)


卵がある
卵の中には凪いだ海がある
扉を開けると海は
すべて流れ出してしまう
午後は草のためのお墓をつくった
併せて案内状も書いた
(午前6:53 · 2021年3月17日·)


窓をつくった
外ができた
どうしたら
向こう側に行けるのだろう
それが自分の目だと気づくのに
しばらくかかった
(午前7:10 · 2021年3月19日·)


自転車を並べるていると
どれも軟らかくて
さっきまで生きていたように温かい
まだ若いのに
一緒に雇われている人がつぶやく
花の名前を言える人に憧れていた
何を手に入れても
こんなものなど欲しくはなかった
そう思っていた
(午後5:50 · 2021年3月23日·)


祭に沿って二人で歩く
僕らには聞こえるものと
聞こえないものがある
それでも話した
古いカーブを曲がる頃には
人は疎らとなり
僕らも疎らとなっていく
やがてお互いが
聞こえないものになる
(午前7:37 · 2021年3月26日·)


隣の薬局の人が来た
境界のフェンスを撤去して欲しい
とのことだった
若い担当さんと拝聴した
話がうまくまとまると
しばらく春の雑談になった
(午前8:01 · 2021年3月27日·)


街の至る所、金属などにも
湿り気を含んだ風が吹き始めた
その適度な風速は
人を少しお喋りにする
机の上には小さな砂糖菓子と
署名の無い引継書
新しい言葉で
暮らしは語られ続ける
(午後6:38 · 2021年3月28日·)


未明のラジオ放送が
春の終わりを告げている頃
眠っている人も
目を瞑っているだけの人も
瞼に幸福のようなものが
降り積もっている
目を開ければ多分
すべて忘れてる
(午前6:55 · 2021年4月9日·)


おさむさんがいたので
おさむさん、と声をかけると
おさむさんはいつものように
大好きな鉄鉱石の話を始める
もっと良いものがあるのに
と言うと
色や形に疲れてしまったのだ
とおさむさんは言う
褒めて欲しかった人のほとんどは
気がつくとどこにも生きていない
ゼリー状のバスに乗る
もう戻らない
(午後6:21 · 2021年4月14日·)




自由詩 つぶやかない(三) Copyright たもつ 2021-04-14 21:12:05
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