つぶやかない(四)
たもつ


外野を抜けた白球を追って走る
走者が一掃して
試合が終了しても
ひたすら追いかける
悲しみも寂しさも
ただの退屈だった
人の形を失っていく
それでも最後の一ミリまで走る
(午前7:25 · 2021年4月19日·)


ビーカーの中に
夜が落ちた
何も量れないように
目盛は消しておいた
そっと手
物も事も普通にある
(午前8:04 · 2021年4月20日·)


私が私だったころ
私はまだ私のことなど知らなかった
ただ無邪気に
私は私だろうと思っていた
いつ私は私になったのか
私にはわからないし
私にはわからなかった
気がつくと私は私ではなく私だった
私だったころの口癖を思い出す
時々仕草の真似もしてみる
(午前7:46 · 2021年4月21日·)


仕事に疲れて
夕日を見ていると
自分などいてもいなくても
何も変わらない
だからもう少し
生きていようと思う
吹かれてみればわかる
風は美しい
(午後6:01 · 2021年4月30日·)


羊たちが集まって来て
僕のお墓を作ってくれた
立派とは言えないけれど
質が良いことは一目でわかった
眠れない夜に
数を確認したことへのお礼だそうだ
みんなでお参りをして
僕の墓前でお茶会をした
ありがとうを言うところで目が覚めた
朝食の片付けを済ませ
娘の結婚式の支度を始める
(午前7:27 · 2021年5月2日·)


あなたが言葉の
真似事をしている
風に揺れて
それが似ているのか似ていないのか
僕にはわからなかった
それでも並んで一緒に揺れると
確かに伝わってくるものが
言葉なのかもしれない
こうしているうちに
僕らが何事でも何者でもなくなる
いつの日かを思う
(午前7:50 · 2021年5月3日·)


雨が降っている
雨が降っていると思う
濡れて咲く人もいれば
乾いた列車で出掛ける人もいる
雨が止めば
雨が止んだと思う人がいる
雨が止んだと思う
(午前7:53 · 2021年5月6日·)


万年筆の隣に
漁港があった
海が近いのだろう
出口から入って来た人が
今、入口から出て行った
(午前7:17 · 2021年5月7日·)


たくさんの枕を積んで
貨物船が入港してきた
市場は朝から声と匂いで
たいそうな賑わいだった
やがて日蝕が始まり
空白の頁は廃棄された
(午前8:00 · 2021年5月10日·)


列車という名前の犬が
一番線に到着した
乗車は出来ないけれど
お手の仕方を教えてあげた
列車は駅員におやつを貰うと
次の駅を目指して出発した
雨上がりにはよく
虹がかかる街だ
(午前7:42 · 2021年5月12日·)




自由詩 つぶやかない(四) Copyright たもつ 2021-05-23 09:07:01縦
notebook Home 戻る  過去 未来