フラミンゴ酒
ただのみきや

絶命譚

 首の長い鳥の群れが土手の向こうへ降りて行く

旅人とは旅の途中で命を落とす者

どこで生まれてもどこで育ってもそこは故郷ではなく

どこに辿り着いてもそこは目的地ではない

まだ知らない見たこともない

地平の果ての何ものかへ

素粒子のように帰依する時

忘我の汀に開く幻の都か

 肢の短い鳥の群れが次の寄留地へ渡って行く

故郷を語れる者は旅人ではない

磁針はあっても地図を持たない者

めくるめく偶然と運命の錐揉みの果て

名詞を持たない何ものかへ

蝶のようにあっけなく

風に焦がれるエトランゼたち






煙草を下さい

愛情には翳りがあるが
愛の概念は揺るがない

愛は原初の傷から流れ出る
だが血の泉もいつかは乾く

そうしてもの言わぬ美しい傷痕は
静謐を微かに綻ばす聖母像のよう

愛を感情や感覚で量る時
人は己の小ささを思い知る

愛を星のように見上げる者は幸いだ
彼らは微笑みの凍死者

諦念と交換した永遠の憧憬は
信仰にも似て罵られても奪われはしない

この世で全く無価値である故に






アフリカの缶詰

奏者はつま弾き音を解き放つ
誕生と死が刹那空に弾け
その無垢な喜悦は燃え尽きて大気に溶ける
瞳は風の中の銀を量る






素描の情欲

苦痛と共に記憶を脱ぎ去って
白樺は見る わたしの瞳の中
顕わな自己像を

光を摘む手が水をさまよう
大気が産気づいていた

錐のように閉じて迷い見る潮騒
誰かの愛人を後ろから抱きしめるように
朝をクシャクシャに丸めて

空を刺すあの爪先まで白い脚へ
渡って行く カルタをならべて



              《2021年3月27日》










自由詩 フラミンゴ酒 Copyright ただのみきや 2021-03-27 19:02:49
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