ついーと小詩集6
道草次郎

「耳」

音楽の
靴裏には
かなしみの泥
音楽には
色彩があり
いろはない
雪がまう
いろがほしい


「早計」

この詩は
誰かを嫌な気分にさせることだろう
その事に耐えられない気もする
ぼくは人生を楽しむタイプの人間じゃない
古生物学や哲学にも
芯から熱中できないから
ホッファーの『波止場日記』より
どちらかというと『神谷美恵子日記』を読むべきだろう
それか 旧版の『夜と霧』でもいい
ぼくは
そういう人間だ
そう言ってしまうのは
でも
早計に過ぎるけれど


「ユートピア」

遠く
果てしなくとおく
そこは離れている
だれもしらない
しかしだれもが既に到達している何処か
その場所の名は?
その場所の名はユートピア
「どこにも無い場所」 という謂い
打ち上げられた巨人の死骸
その脇腹に打ち寄せる
夢の水素の
真っ青なうつくしさ


「離脱」

一つの風景の創造
気流をきり裂く翼の声は
どこか境涯をさとっていたようでもあり
しかしそれは一体
誰にとっての夢だったのだろう
何にとってのクエスチョン・マークだったのか
一筋の白い飛行機雲は
オゾンの風を斜めに横切り
袖まくりした宇宙のうち懐に
今しも飛び込んで行くところだった


「芸術」

石版がある
ノミがある
ノミを打つ槌がある
人がある
考えがある
筋力がある
そして
行為がある


「猫に遠慮して」

晴れているので日向にいる


自由詩 ついーと小詩集6 Copyright 道草次郎 2021-03-23 21:10:57
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